研究課題/領域番号 |
16K02188
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
中野 泰治 同志社大学, 神学部, 准教授 (80631895)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 17世紀クエーカー / 教会論 / 社会形成 / 内なる光の権威 / 集会の権威 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、研究実施計画に沿って、17世紀のクエーカー思想家たちの思想、具体的には、George Fox(1624-91年), Robert Barclay(1648-90年), Margaret A. Fell(1614-1702年), Isaac Penington(1616-79年), George Whitehead(1636-1723年)などの主要なクエーカー思想家による文献の読解作業とその理論的分析を、特に教会組織論(社会形成論)という観点から進めた。 研究成果:(1)彼らの思想は、それぞれの時代の社会・思想状況を反映して多少のニュアンスの違いはあるが、基本的には、個人の啓示体験を「主観的なもの」と見なし、それを聖書の証や集会における複数の証によって検証する必要性(Corporate Discernment)を説く点で一貫していること、(2)内なる光(聖霊の働き)の権威と集会の権威の二つの権威を認め、それらのバランスを取ろうとしていること、(3)そして、それぞれの時代の神学論争の結果として、17世紀半ば(共和制期)、17世紀後半(王政復古以降)、18世紀初頭と時代が移るにつれて、上述のバランスが「集会の権威」や「規律の重要性」の方へ傾いていったことが明らかとなった。 本成果の重要性:(1)クエーカーの教会論の特殊性、つまり彼らの集会形成論には、外部へ開くシステムが備わっていることを明らかにし、(2)また、17世紀クエーカー思想に関する従来からのRufus M. Jonesらによる自由主義的史観、すなわち、17世紀クエーカー思想を体系化したRobert Barclayの神学が直接的原因となって、18世紀のクエーカーが閉鎖的なものとなったという説とは別の視点を提供する点で、重要な研究となったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初から予想されたことであるが、17世紀クエーカーによる著作物の英語は、それぞれの著者のくせが非常に強く、読解に多少の困難が伴ったため、上述の主要なクエーカー思想家の著作を網羅的に読解することはできなかった。そのため、特に「教会論(社会形成論)」と「内なる光の権威と教会の権威の関係」という観点に絞って、読解作業を進めた。 また、上述のクエーカー思想家以外にも、James Naylor(1616-60年), Richard farnworth(1630-66年), Edward Burrough(1634-62年)、William Penn(1644-1718年)などの重要なクエーカー指導者の著作が存在するが、それらにあまり手をつけることができなかった。これらの未読の著作は、引き続き、平成29年度も読み進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、(1)17世紀クエーカー思想家による著作の読解作業を引き続き進めつつ、(2)英国を中心に17世紀から現代までの集会の会議録の選択的な収集と分析を行い、実際にクエーカーたちがどのようにして合意形成を行ってきたかについて分析する。(3)また、スイス・ジュネーブにあるクエーカー国連事務所(Quaker United Nations Office)にも足を運び、DirectorであるJonathan Woolleyと対談(インタビュー)することで、世俗のレベルでどのようにしてクエーカー式の合意形成が運用されているかについても調べる。(4)さらに、英国のクエーカーの教育機関であるWoodbrooke Collegeにて、集会を運営する書記(Clerk)になるための訓練を受け、クエーカー式の合議形式の知識や技術、またその根底にある心的態度などについて学ぶ。(5)以上のことから得られた成果を、英語もしくは日本語で発表、論文として出版する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、論文を英語で執筆する予定であったが、時間の関係上、三つ執筆した論文のうち、一つのみが英語論文となった(こちらのプルーフリード料金は大学の個人研究費で支出)。そのため、プルーフリード費用として計上したものを使用しなかった。また、大学の業務の関係上、学会に出ることも出来なかったため、旅費・学会費として計上したものを使用しなかったため、残額が出た。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の残額は、今年度にまた英語で論文を書く際のプルーフリードの費用として利用し、また学会へ出席する旅費として使用する予定であるが、それでも残る場合は、本年度は英国へ資料収集のために出かけるので、その資料収集にかかる経費(書籍・コピー代など)として利用したい。
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