本課題で明らかになったことは、(1)クエーカーの合意形成や組織論は、敵対者への愛の点でキリストに完全に倣うこと、つまり「完全」な聖化(正しいものとなること)に徹底的に基礎付けられいたこと、(2)20世紀来の自由主義クエーカーでは全く異なる解釈の下に合意形成および組織形成が行われるようになったことである。 伝統的なクエーカーの信仰では、自己の無化(沈黙)において、内なる光(神からの働きかけ)に従うことで義とされ、聖化される。17世紀半ばの最初期のクエーカー信仰では、当時の思想潮流としての切迫した終末論を背景に、時の完成と人の完成(聖化の完成)が即時的なものと見なされていたが、終末論が減退した王政復古期以降は、クエーカーの完全論は、時間をかけて達成するものとなった。この修正された完全論(つまり、敵対者や異質者への愛)がクエーカーの合意形成や教会論(組織論)の核となる。合意形成において、クエーカーは神の導き(計算不可能な領域への開け)の下に、多数決や議論の力による決定ではなく、最後まで異質な意見に耳を傾け、最終一致に至るまで話し合いを行う。組織論においては、それぞれ異なる賜物(性質)を持ったもの同士の愛の関係が強調される。 こうした完全論に基づく合意形成および組織論は、新ヘーゲル主義の影響下に形成された20世紀来の自由主義クエーカー思想では全く違うものとなる。内なる光を「内なる他性」ではなく、自己の理性や意志の働きと見なされるようになる。そして、クエーカーは、U理論といった世俗の合意形成、組織形成論の影響を受けて、他者との対話、他者との関係構築を相互関係的なものではなく、自己の成長(自己実現)に基づくものと見なすようになった。つまり、現代クエーカーの合意形成および組織形成は、自己による計算可能な領域で行われるものとなった。 上記二点は、クエーカー研究における新たな貢献である。
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