研究課題/領域番号 |
16K02189
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐々 充昭 立命館大学, 文学部, 教授 (50411137)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大本教 / 人類愛善会 / 道院・紅卍字会 / 宗教連合運動 / 満洲事変 / 出口日出麿 / 趙欣伯 / 林出賢次郎 |
研究実績の概要 |
今年度は、強固な提携関係を結んだ大本教と道院・紅卍字会が1932年に建国された満洲国内でどのような活動を行ったのかについて研究を行い、論文(「満洲事変における大本教の宣教活動-道院・紅卍字会との提携を中心に」『立命館文学』第673号)を公刊した。大本教は満洲事変直後に総統補の出口日出麿を派遣し、道院・紅卍字会との提携関係を利用して難民救済と戦禍の収集事業を展開した。その傍らで、満鉄の支援を受けながら日本軍の慰問活動を行った。このような活動は、道院・紅卍字会のメンバーを関東軍や満鉄関係者に結びつける結果をもたらした。本論文では、満洲国の建国に加担した袁金鎧、臧式毅、カン朝璽、湯玉麟、煕洽、張景恵、張海鵬らが道院・紅卍字会のメンバーであった事実や、関東軍の土肥原大佐の後任として奉天市長に就任した趙欣伯が、満洲国建国の「産婆役」として重要な役割を果たし、かつ大本教の熱心な賛同者であった事実を明らかにした。 その他、満洲国関連の各種資料を収集・分析することにより、満洲国の紅卍字会が中国本土の中華総会から分離して、満洲国の施政に協調的な独自の活動を展開した事実を明らかにした。特に満洲国内において宮内府行走として溥儀の通訳をつとめた林出賢次郎に関する研究で大きな成果を得た。林出はもともと大本教の信者であり、外務省書記官として南京駐在中、関東大震災時に派遣された道院・紅卍字会の慰問使節を大本教へ紹介した張本人であった。その時、林出は道院・紅卍字会に入会し、その後も紅卍字会中華総会の名誉会長や北京総院の名誉統掌などの要職を歴任した。満洲国と日本・朝鮮との連帯を深める目的で満洲国の安東道院が主体となって1935年に朝鮮の京城に朝鮮道院が設立された。その際、林出は朝鮮道院の最高幹部である「道慈統監」に就任した。これらの事実についてまとめた論文をほぼ完成させ、来年度に公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は海外で現地調査を行う予定であったが、COVID-19の感染状況が収束しなかったために実施することができなかった。そのために、当初の研究計画を変更して国内において資料収集と論文執筆を中心に研究を進めた。今年度までに行った資料調査とそれを通じて明らかにされた事実は以下の通りである。 大本教の出口王仁三郎は1923年に関東大震災の慰問団として訪日した道院・紅卍字会の使者と面会して提携関係を結んだ。この時点で王仁三郎は朝鮮の普天教との提携を同時に進めており、東アジアにおける新宗教団体を統合する宗教連合運動を推進しようとした。これに関しては、林出賢次郎関係文書の調査を行い、両教団提携に至る詳細な経緯を把握した。また韓国に所蔵されている普天教関係文書を通じて、大本教と道院・紅卍字会の提携に普天教がどのように関与したのか明らかにした。 出口王仁三郎は1924年に少数の部下を連れてモンゴルへ渡ったが、この「入蒙」に参画した人物の中に大陸浪人の岡崎鉄首がいた。岡崎は、末永節を中心に大高麗国の建国を推進した肇国会のメンバーであったが、この大高麗国構想には間島地域に亡命した朝鮮人独立運動家も多数参加していた。末永節の大高麗国建国構想に関する資料調査を行い、出口王仁三郎と大陸浪人との人脈関係を明らかにすることができた。 大本教は1932年の満洲国建国以降、道院・紅卍字会との提携関係を朝鮮の新宗教教団に広げていった。それは単に普天教だけではなく、上帝教・侍天教・天道教・檀君教など様々な新宗教教団を対象とするものであった。このような大本教の朝鮮進出は、大本教と道院・紅卍字会と普天教との提携関係を布石とするものであり、その背後には一進会の人脈を利用した内田良平の働きがあったことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本来は、今年度が研究最終年度であった。しかし、COVID-19の感染拡大のために、当初の計画通りに研究を遂行することができなかった。来年度は、過年度までに収集した資料を整理しながら、研究の成果を論文にまとめて公刊する。 そこで扱う研究内容を列挙すると以下の通りである。出口王仁三郎の「入蒙」と大陸浪人、大本教と普天教との提携、出口王仁三郎による宣統帝擁立工作、出口王仁三郎と内田良平の連繋による道院・紅卍字会の支援活動、人類愛善会朝鮮支部の活動における内田良平の影響、植民地期朝鮮における朝鮮道院の設立、朝鮮道院における檀君教信者の入信とその活動、第二次大本教弾圧事件後に日本で展開された道院・紅卍字会に対する支援活動などである。 その際、戦前期に展開された大本教と道院・紅卍字会との宗教連合運動が「(大)アジア主義」の宗教的次元における膨張として、日本帝国主義と親和性を有するものであったという問題提起を行う。今日の宗教学研究では「宗教間対話」や「宗教協力」が重要な研究テーマとなっている。本研究では、大本教と道院・紅卍字会の事例分析を通じて、東アジアの宗教団体による宗教連合運動が各種慈善活動の協力や紛争緩和の一助となる一方で、アジア域内のブロック化に同調する危険性があることを指摘する。今日の東アジアにおいて、今後どのような宗教間対話・宗教協力が求められるのか、大本教と道院・紅卍字会の提携事例を通じて新たな提案を行う。
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