研究課題/領域番号 |
16K02193
|
研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
山田 政信 天理大学, 国際学部, 教授 (70434975)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | プロテスタント教会 / ブラジル / スペイン / 移民 / カトリック教会 |
研究実績の概要 |
①スペイン(バルセロナ市、ビゴ市)と国内(三重県亀山市)のコングレガソン教会で集会の模様を参与観察し、ブラジル人1,5世(移民した時点で18歳未満)を中心にインタビュー調査を行った。②バルセロナ市では暴走テロが起こった2日後(8月19日)に現地入りして、テロ反対運動を視察し、事件に関する報道記事を入手するとともにブラジル人が置かれている社会的位置を確認するための資料とした。インタビュー調査からは、イスラム系モロッコ移民には不寛容な視線が注がれることがあるとの回答がみられたが、ヨーロッパ出身の祖先を持つブラジル出身者は外見的特徴からそうした苦い経験はしていないという回答が多かった。また事例は少ないものの、アフリカ系ブラジル出身者からもスペイン社会で差別された経験は少ないという回答が得られた。③スペイン(バルセロナ市、サンタコロマ市)のカトリック信者にインタビュー調査(予備調査)を行った。 フィールド調査はコングレガソン教会信者の若者を中心にインタビューを行い、スペインでは2017年8月13日から同29日まで18名の、国内では2017年5月31日に1名のライフヒストリーの聞き取りを行った。内容は、①1,5世として生きることによる内面の葛藤の有無とそのありよう、②葛藤がある場合、宗教はどのようにその状況に立ち向かわせるのかについてである。また、スペインのカトリック信者に対して16名に電話によるインタビュー調査を実施し、移動の経緯と定着の過程、教会活動の状況について聞き取りを行った。 天理大学アメリカス学会年次大会で主にアフリカ系文化にかんするシンポジウムを開催し、ディアスポラとして生きる人と文化の移動によって「近代的帰属」のありようが問われる様をモデレーターの立場から議論した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況は次の通り。①1,5世として生きることによる内面の葛藤の有無については、身体的特徴よりも言語の習得状況が大きくかかわっている。スペインは今や移民国であり、ラテンアメリカ出身者が多い。調査対象となった人々はラテンアメリカ出身者の割合が高い学校に通っていることが多くブラジル人意識を強く意識する若者がいるが、自分をラテンアメリカ人として相対化する傾向もみられる。小さな頃に移住した者ほど現地語(スペイン語、およびガリシア語〔ビゴ市〕またはカタルニア語〔バルセロナ市〕)の習得率は高く、自分を外国人だと意識しない者もいる。とりわけ、肌の色が白く外見的にヨーロッパ系だと判断される場合はなおさらである。その場合、外国人としての葛藤が見られないのみならず、自他ともにスペイン人だと見なす傾向がある。一方、現地語の習得に時間がかかり落第や退学を経験した者には内面の葛藤を抱えるケースが看取される。②葛藤がある場合、集会の祈りや聖歌を通じて、いずれよき方向に神が導いてくれると理解しているケース(宿命論とかかわりがある)や、そもそも教会は誰でも受け入れてくれる場所だと認識することで安堵感を得ているケースを確認した。 なお、スペインでの調査は、主として学生層のインタビューイを優先したため日程を夏季休業時に合わせた。一定程度の調査協力者を得てデータを収集することができたが、研究代表者が日本に帰国したのちに電話でインタビューする予定だった6名の学生らからは回答が得られなかった。日本の同年層の信者に対するインタビューについても協力者を探す必要がある。また、日本の教会の設立経緯について調べる必要がある。これらは今後の課題である。 スペインのカトリック信者に対しては、予備調査として電話によるインタビューを行い、渡航と定着(就労・居住)、カトリックコミュニティへの参与の仕方について聞き取りを行った。
|
今後の研究の推進方策 |
フィールド調査:【コングレガソン教会】A. これまでにインタビューを行ったコングレガソン信者に対して以下の項目に関して追跡調査を行う。①教会(信仰・信者)によってスペインで得た救済体験、②スペインで行った利他的実践、③ブラジルへの送金とブラジルで帰る場所の有無。B. 日本の1,5世信者に対するインタビュー調査。【カトリック教会】8月末から9月初旬(予定)にかけてフィールド調査を行う。①ポルトガル語のミサの視察、②ポルトガル語のロザリオの集会の視察、③信者への移動と宗教活動についてのインタビュー調査。 文献調査:スペインにおける移民の受け入れ態勢、現状、問題点について。これまでの2年間の研究活動でバルセロナ市における移民の宗教に関する資料が収集できたので、それらをまとめる。ビゴ市に関する資料収集は今後の課題である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に予定していた国内調査で対象者らとの面会の調整ができなかった。そのため、国内調査は1回の実施にとどまり次年度使用額が生じた。平成30年度では旅費(国内調査)と物品費(パソコン購入)に使用する予定である。
|
備考 |
寄稿:山田政信「NO TINC POR! 私は恐れない-暴走テロに立ち向かうバルセロナの人々-」『Migrants Network』、移住者と連帯する全国ネットワーク、195号、2017年、34-35頁。
|