研究課題/領域番号 |
16K02196
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
磯前 順一 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (60232378)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 聖俗論 / 聖賎論 / 公共性 / 日本宗教史 / 共存 / 排除 / 被差別部落史 / 天皇制 |
研究実績の概要 |
本研究は日本宗教史の先行研究を軸として、宗教研究における聖概念を重ね合わせて、あらたな公共性論を模索するものである。日本宗教史に関する作業としては、歴史学者の網野善彦『中世の非人と遊女』(1994年)に収録された諸論文の批判的解読を徹底して行なった。そこにおいて自由という問題が聖とどのように関係しているのか、そして差別と排除という現象がどのように結び付けているのかを検討した。 その際に日本宗教史の聖賎論の最新成果のひとつである片岡耕平『日本中世の穢と秩序意識』(2014年)との比較を、本人との直接的な討議も踏まえて行い、現在における歴史学の差別論の問題点を把握した。そこでは自由と差別の関係が相対立するものと理解されており、むしろ支えあうものとして理解する観点が弱いことが明らかになった。 宗教研究の聖理論についてはエミール・デュルケムに始まり、1950-60年代のミルチャ・エリアーデにいたる聖俗論を軸に、タラル・アサドの宗教/世俗論(『宗教の系譜』1993年)およびジョルジュ・アガンベンの聖賎論( 『ホモ・サケル』1995年)を比較して、聖の意味づけの異なりを把握した。「俗(profane)」と対をなすときと、「世俗(secular)」と対をなすときの、「聖(sacred)」の意味の違いが問題であることが明らかになった。 そして、日本宗教史と欧米の聖理論の交差点に、公共空間のメカニズムが宗教との関係から論じられるよう視点(島薗進/磯前順一編『宗教と公共空間』2013年)をおくことで、日本の公共空間を支える権威であった天皇制を聖賎論及びジャック・ラカン的な他者論の観点から問い直す作業に着手したところで、本年度の研究実績は終了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
差別に関する網野善彦の著作『中世の非人と遊女』及び『無縁・苦界・楽』の分析と史料の抽出がほぼ終了した。また、欧米の宗教研究における聖俗・聖賎論の研究史リストの作成及び各文献の概観も終わった。大阪の芦原橋の浪速部落や人権博物館の訪問調査も終わり、主要な関係者とのネットワークもほぼ確立した。
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今後の研究の推進方策 |
網野の著作のみならず、日本宗教史における差別と芸能民や被差別民の関係を論じた先行研究の文献一覧を作成し、その著作を順次検討し、欧米の聖理論及び公共性論を踏まえた新たな視点からの研究史の再整理を試みる。 その上で主要な日本宗教史の資料を駆使して、独自の日本宗教史における差別と自由の関係、あるいは聖なるものと俗なるもの・賎なるものとの関係を新視角から描写する。そのときの視点は、アガンベンの言うような聖なるものは他者を排除することを必要とするのみならず、自らの排除も必要とする、そして排除は排除で終わるのではなく、秩序を構築するために自らを排除した共同体に包摂されるというものを基点に置くものとなる。 日本宗教史を踏まえた理論的考察を、欧米の宗教学あるいは歴史学会で成果として公開できるような国際的な視点を備えた研究として推進する。
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