研究課題/領域番号 |
16K02202
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
横田 理博 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (10251703)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鈴木大拙 / 『大乗仏教概論』 / 法身 / アルトゥーア・ショーペンハウアー / 釈宗演 / マックス・ウェーバー / 世俗内的神秘主義 / アメリカ |
研究実績の概要 |
1. ヴォルフガンク・シュルフターの『宗教と生活態度』(1988年)を読んで、ウェーバーが残した諸文化論(中国論、インド論、古代ユダヤ教論)についてのシュルフターの見解、およびウェーバーが構想したが著述できなかった諸文化論についてのシュルフターによる構成(原始キリスト教論、イスラム論、西洋論)について検討した。 2. マックス・ウェーバーの『序論』と『中間考察』を改めて読み直し、とくに「禁欲/神秘主義」という軸について再考し、「世俗内的神秘主義」が行為の最小化ではなく能動的行為を促す可能性について検討した。また、教員免許状更新講習という場でマックス・ウェーバーの比較宗教社会学の全体像について総括した。 3. フランシス・フクヤマの『歴史の終わりと最後の人間』を読んで、その後今日に至る世界における「リベラルな民主主義」と権威主義的な専制国家との趨勢について考えるとともに、ニーチェが唱えウェーバーも言及した「最後の人間(末人)」という人間像をフクヤマがどう描いているのか検討した。 4. 鈴木大拙の『無心といふこと』(1942年)を読み、根本的無分別、はからいのない受動性、大肯定としての「無心」の境地や、親鸞の「自然法爾」思想と禅宗の「無心」が根本上一致するという鈴木の考えを理解し検討した。また、鈴木の『仏教の大意』(1947年)を読み、大智と大悲とが仏教の「二つの大支柱」だとする鈴木の根本的立場、「分別識/般若(無分別)」の区別や、「事事無礙法界」という華厳哲学についての鈴木の見解を把握した。 5. 「鈴木大拙の『大乗仏教概論』についての考察(中の二)」、「鈴木大拙とマックス・ヴェーバー」、 “Daisetz Teitaro Suzuki’s Outlines of Mahayana Buddhism and its Relation with Arthur Schopenhauer: Reception of Schopenhauer in Meiji Japan” という三点の論文に研究成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鈴木大拙と大拙夫人ビアトリスとの旧蔵書や書簡が保管されている松ヶ岡文庫(鎌倉市)、鈴木がアメリカで滞在していたラ・サールのThe Hegeler Carus Mansion(イリノイ州)、そして南イリノイ大学のオープン・コート文庫(the Open Court papers at Southern Illinois University)を訪れ、資料を調査し、鈴木の交友関係と思想的交流を探ることを計画していたが、2020年度に続き2021年度もまた、新型コロナウィルスの流行により、鎌倉とアメリカでの資料調査はできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1. 拙稿「鈴木大拙とマックス・ヴェーバー」で、鈴木とウェーバーとのいくつかの接点について論究したが、たとえばエーリヒ・フロムという人物もまた、その接点の一つなのかもしれないと考えている。フロムはハイデルベルク大学在学中(ウェーバーはすでに死去しているが)マックス・ウェーバーに関心をもち、 1941年の『自由からの逃走』でウェーバーに言及する。その後1950年代にフロムは鈴木と共同研究をおこない、『禅と精神分析』という成果を残した。フロムがウェーバーの著作から何を学び、鈴木から何を学んだのか、また鈴木がフロムから何を学んだのか、検討してみたい。 2. 鈴木の80歳代のアメリカ滞在時の、老荘思想への関心、エックハルトへの関心、フロムとの交流、『禅と日本文化』改訂などに着目し、鈴木の思想の変化を追いたいと考えている。 3. マックス・ウェーバーの比較宗教社会学における「禁欲/神秘主義」または「神の道具/神性の容器」という比較の枠組みについて、その問題点も含めて考察したい。とくに「世俗内的神秘主義」と「おのずから」への随順という日本思想との関連に着目してみたい。 4. 新型コロナウィルスの感染状況が収束するなら、鎌倉の松ヶ岡文庫とアメリカの図書館・資料館に赴いて、鈴木の思想的交流の様子を探りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、資料調査のための出張ができなかったため、残額が生じている。感染が収束した段階で、所期の計画を実行したい。
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