本研究の目的は、デモクラシーの進展する時代における市民的資質、市民性との関連で教養や教養教育の役割や意義を考察することであり、特に、J・S・ミル、M・アーノルドなどを対象としつつ、19世紀イギリス思想史を題材にデモクラシーとの関連で教養が市民的資質に与える影響について、狭義の政治的リテラシーにとどまらない、文学や芸術の役割等に着目し検討してきた。根底にある今日的関心としては、主権者教育や高等学校における新設必修科目の公共などで市民的資質への関心が高まる中、協議の政治リテラシーにとどまらない広義な市民的資質に関わる教養の思想史を参照することで、その意義を問い直すことにあった。また、同様の関心時から、近代フランス思想史における文脈で、ルソーやディドロらを含むかたちで、18世紀フランスの『百科全書』なども素材としつつ、近代思想史における教養や政治的教養、その政治思想的意味についても検討した。一方、実践的関心としては、現代の市民的資質の育成の観点から教育について考えていくことも目的としており、その文脈での研究や活動等も継続して実施しており、今年度もそれに関するシンポジウムなどで話した。本研究課題については、コロナ禍の関係で、十分調査できない面もあり若干延長したが、今後の研究に繋がる形を作れたことから、今年度で終了とする。今後に繋がるものとしては、本研究を活かした形で、学会で政治リテラシーに関するプロジェクトに関わることや、新たな科研費でも引き継ぐ。新たな科研費のうち、政治思想を対象として市民的資質の問題を考えるもののほか、分担者としては、主権者教育における高大連携の可能性について、昨年、学会のラウンドテーブルで話したものを、今後引き続き検討するなどの形で引き継いでいく。
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