研究課題/領域番号 |
16K02205
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 祐理子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (30346051)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エピステモロジー / バシュラール / カンギレム / 20世紀物理学史 / 20世紀生命科学史 / カント |
研究実績の概要 |
本年度は、年度初頭に提出した「研究目的」および「研究実施計画」に従い、ガストン・バシュラールと19世紀から20世紀の物理学展開史に関係する資料の収集を進めた。そのうえでこれらの資料の検討を行ない、バシュラールの初期哲学の形成と、19世紀末の物理学の諸概念の形成過程とを対比しながら分析し、物理学的展開が同時代哲学に与えた「新たな世界観」の意味について考察することを目指した。これによって、まず本研究の基盤的視座を打ち立てるべく、レントゲン、ベクレル、P・キュリー、M・キュリーらの草創期の研究から放射線と「粒子」の連関への研究関心が形成、顕在化していく過程と、ラザフォード、アインシュタイン、ボーアらの20世紀物理学の理論および実験両面における急速な展開が、19世紀哲学において科学認識論を支えていた基本的な認知の諸モデルを再検討させるに至った歴史的状況について、哲学史・科学史の両方の史的文脈から整理した。カント哲学を支える空間と時間による人間的認知の基本理解、およびニュートン的世界観による力学的統一空間の関係性理解がいかにして否定されるものとなったかが、20世紀の哲学的課題として現出していたことを理解し、これがバシュラール哲学の出発点であることを確認した。 上記の研究と同時に、本年度2月には、「研究目的」にも記載していたグザヴィエ・ロートによるジョルジュ・カンギレム初期哲学に関する研究の邦訳を刊行した。原著者ロートのフランス19世紀におけるカント受容の文脈についての研究と、20世紀初頭のフランス哲学の潮流の転換に関する考察とを詳細に検討し、これに上記の同時代の科学史的状況をさらに対置しながら、カンギレムによる科学認識論研究の形成を問う視座の構築に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記した通り、本年度は本研究の研究計画における「計画課題」の「Ⅰ」にあたる、「現代科学史と現代哲学史の接点・起点としてのフランス・エピステモロジー」について、研究を進めることに注力することができた。それによって、研究代表者がこれまで続けてきた生命科学と哲学の関連に関わる史的研究、およびジョルジュ・カンギレムを中心とする現代フランス哲学における「人間性」と「主体性」の再検討という主題の展開についての研究を、ガストン・バシュラールの哲学と接続させる基盤を構築することができた。一方では、これに該当哲学的文脈を包括するためのバシュラールの初期文献およびレオン・ブランシュヴィックらの認識論に関わる議論を再確認するとともに、他方では、19世紀物理学の展開が従来の西洋自然科学における化学、生物学の分類を再検討させるに至る科学史的文脈を整理することができた。また、カンギレム初期哲学の検討に関わる翻訳書の刊行も行なうことができた。 ただし、この翻訳に関しては予定よりやや時期的に遅れたため、これを基盤としたカンギレム哲学と20世紀科学史の展開との関わりについての内外の研究者との意見交換、特に原著者グザヴィエ・ロートをはじめとするフランスの研究者との共同作業を進める研究計画については、次年度へと持ち越すこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記した「研究課題Ⅰ」の「現代科学史と現代哲学史の接点・起点としてのフランス・エピステモロジー」に関する資料収集・分析を引き続き基盤としながら、まずこの「研究課題Ⅰ」および「研究課題Ⅱ」の「哲学的「主体性」の動揺と同概念の再検討」という、二つの思想史的な展望を総合して、哲学的な基本視座を整理し、公表することを目指す。そのために必要である資料のさらなる収集・分析を続けるとともに、二〇世紀への転換点を舞台とした哲学史の二本の重要な道筋として、これらの「Ⅰ」および「Ⅱ」の研究成果を呈示できる段階まで、研究を進めるように努める。そのために、この二つの主題について、前年度に引き続いて、学会と共同研究の場を借りて、研究報告および論文発表・草稿検討の形で本研究の成果についての検討・批評を多く受けられるように機会を求めていく。 これに加えて、「研究目的」に記した通りに、「Ⅰ」・「Ⅱ」の二種類の哲学史的コンテクストを背景に置きながらカンギレムの「生命の哲学」を整理する「Ⅲ」の作業を進める。これについても史資料の追加収集・分析を続けるとともに、試論的な研究発表を行ない、他の研究者からの検討を受けるように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
前記した通り、翻訳書の刊行が遅れたため、今年度はこれを基盤とした内外の研究者との意見交換の機会が計画より少なくなり、特にフランスの研究者との連携の場について次年度以降に持ち越すこととなった。これにより、次年度使用額が発生することとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度において、あらためてフランスへの渡航を中心に、共同研究の機会を計画する。次年度使用額は、当初よりの助成金とともに、これらの共同研究に関わる旅費、物品費の一部として使用する。
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