研究課題/領域番号 |
16K02205
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 祐理子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (30346051)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フランス・エピステモロジー / 現代医学史 / 現代物理学史 / カンギレム哲学 |
研究実績の概要 |
研究計画に基づき、研究主題のⅠである「現代科学史と現代哲学史の接点・起点としてのフランス・エピステモロジー」と、Ⅱである「哲学的「主体性」の動揺と同概念の再検討」を中心として資料収集と分析を進め、これを基盤としたⅢの「カンギレム「生命の哲学」の全体像再構築」を目指した。Ⅰに関しては特に20世紀転換期における物理学研究の進展と新知見の科学研究内的・外的な影響を整理し、バシュラールの1920年代から30年代の物理学と化学のエピステモロジーの議論と対象を確認するよう努めた。続けて、1930年代から40年代の物理学研究活動がこの時期の国際政治的状況から受けた影響を考察するとともに、同時代における生物物理学的研究の視座の萌芽とその展開について整理を行なった。これらの物理学と生物学の交錯の歴史と、40年代の医学史の展開との関係に注目したうえで、並行する時期のカンギレムの哲学的な主要概念の変遷を辿る作業に着手し、これは現在も継続中である。上記の研究に伴うものとして、6月には米国ペンシルヴァニア州立大のラン・ツヴィゲンバーグ氏、慶応大(当時)のロー・シーリン氏、立命館大(当時)の中尾麻伊香氏とともに、物理学史と医学史・医療史を交錯させる試みである「原爆と医学史」ワークショップを開催した。また、2月にはフランス・パリ・高等師範学校付設の科学史・科学哲学・科学出版史料センターにてカンギレムの30年代の手稿を調査するとともに、同センターのエマニュエル・ドリール博士とカンギレムの科学史研究と哲学的問題設定との関係について共同研究の打合せを行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記した通り、今年度は特に19世紀末から20世紀前半にかけての物理学と生物学の展開と相互影響を、同時代の国際関係史的な動きとの関係にも着目しつつ分析し、それらの科学史的展開を基盤としたうえで、エピステモロジーの主要な問題構成について考察を行なうように努めた。その際に、科学研究の内在的な論理展開や方法論的飛躍といった側面と、外在的な応用要請や技術開発的期待、基本的人間観・身体観への影響や生活様式の変容といった側面とを連続的に考察することを目指して、科学・技術の歴史とともにその社会史的受容・表象の歴史を研究しているツヴィゲンバーグ氏、ロー氏、中尾氏、さらにシンガポール南洋大のスルフィカー・アミール氏らと研究協力を進めることができた。また、パリ高等師範学校のドリール氏とも、カンギレムを中心としたフランス・エピステモロジーの科学史的研究の方法論が意図していた哲学的問題設定の探究に関わる研究協力の基盤を作ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度には、うえに記した研究協力体制を活かした研究活動をさらに展開していくとともに、研究計画に記した研究主題のⅢとⅣである「カンギレム「生命の哲学」の全体像再構築」・「カンギレム哲学のラディカリズムとその反響」について、研究成果を広く公表していくようにしたい。そのために、5月にはカンギレムのエピステモロジー研究とその次世代への影響に関わる研究報告を3件予定しており、哲学および科学史を中心とする多分野の研究者からの批正・教示を得られる機会を予定している。また7月には英国リバプールで開催されるSociety for Social History of Medicineの年次大会にてツヴィゲンバーグ氏、リバプール大のアヤ・ホメイ氏らとともに現代科学研究と東アジア社会での受容史との関係についての研究報告を行ない、現代科学史・生活史・社会史の交錯に関わる議論を深めたいと念じている。それらの研究報告・議論の場に並行する形で、そこでの知見を活かしながら、研究報告としての論文を執筆し、成果をとりまとめていく予定である。
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