研究課題/領域番号 |
16K02212
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
安酸 敏眞 北海学園大学, 学長 (40183115)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | キリスト教学 / シュライアマハー / トレルチ / 波多野精一 / 有賀鐵太郎 / 学問的神学 / 19世紀プロテスタント神学 |
研究実績の概要 |
平成29年度もシュライアマハーの『キリスト教信仰』Der christliche Glaube nach den Grundsaetzen der evangelischen Kirche im Zusammenhange dargestellt. Zweite Auflage (1830/31)の読解・翻訳に努め、第一巻の第二部(§§62~85、pp. 389-529)と第二巻の冒頭部分(§§86~90、pp. 1-34)の読解・翻訳を終了した。シュライアマハーの文章は著しく難解で、当初想定していたような速度で読み進むことは不可能に近い。また一つ一つの文章が長く複雑な構造になっているので、綺麗な日本語に置き替えることは相当の熟練を要することが判明している。 トレルチに関しては、『新キリスト教組織神学事典』(教文館、2018年)に「トレルチ」の項目を執筆した(同書281-285頁所収)。また研究指導していた博士後期課程の院生塩濱健児氏の博士論文『「歴史を歴史によって克服する」――エルンスト・トレルチの≪歴史主義≫について』との連関で、トレルチの思想全体における信仰ならびに神学的モティーフの重要性を、一次文献および二次文献を再度丁寧に調べて、遺稿『信仰論』の意義を再確認する作業を行った。 有賀鐵太郎に関しては、12月9日に開催された「有賀鐵太郎没後40年記念シンポジウム」(京都大学基督教学会第19回学術大会)に出席し、水垣渉氏の講演「ハヤトロギアと≪論理の中断≫」と、鐵太郎の長男の有賀誠一氏の回想「父、鐵太郎を語る」から多くを教示された。またその会ののち、有賀に関する貴重な体験談を水垣氏から個人的に伺い、有賀鐵太郎の学問研究の方法について理解を深めることができた。 本研究を通じて新たに得た知見を、拙著『人文学概論』の増補改訂版のなかにも反映させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画から大きく遅れてしまっているが、その一番の理由は、平成29年度から学長に就任したために、自分の研究に避ける時間が圧倒的に減少してしまったことである。本学は一部・二部併せて在学者約8300名を数える大規模な大学であるにもかかわらず、副学長制度を導入していないために、学長自らが大学運営のかなりの部分を一人で担わざるを得ず、研究に大きな支障が生じている。学内行政の合間に少しでも時間を見つけて研究したいと思っているが、いかんともしがたい現実がある。 もう一つの大きな理由は、無理がたたって急性の腰椎ヘルニアを発症し、8月に長期の入院手術を余儀なくされたことである。その外科手術の後遺症は今なお続いており、当面は無理をしないように医師から命ぜられている。 上記の理由のほかに、やはりシュライアマハーの文章の難渋さと、その思想の高度の思弁性(ヘーゲルとは違った意味での思弁性)ゆえに、彼の『キリスト教信仰』を理解するのに当初予想していた以上の困難があり、スムーズに進捗しないのも遅れの一因である。
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今後の研究の推進方策 |
すべては、2年前に罹患した前立腺がんと昨年発症した腰椎ヘルニアの回復次第であるが、平成30年度の研究目標は、シュライアマハーの『信仰論』Der christliche Glaubeの第二部の残り部分(§§91~172、pp. 35-532)の読解・翻訳を完遂することと、昨年度実行できなかったドイツでの現地調査を実施することである。夏休み期間を利用して、ベルリンとハイデルベルクとミュンヘンを訪れ、シュライアマハーとトレルチと波多野精一の足跡を辿るとともに、トレルチ研究者のFriedrich Wilhelm Graf氏とHorst Renz氏と会って、トレルチ研究の現状と方向性について意見交換をする予定である。 それとは別に、もし可能であれば東京神学大学に所蔵されている波多野精一の蔵書と、同志社大学に残っているかもしれない有賀鐵太郎の米国留学に関する資料を閲覧して、彼らがそれぞれシュライアマハーおよびトレルチからいかなる思想的影響を受けたかを調査してみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では二年目の平成29年度に、アメリカないしドイツに実地調査に行く予定であったが、学長に就任したこととヘルニアに罹患して長期入院手術を余儀なくされたため、海外出張が不可能となり、一部を図書購入などの別の費目に割り当て、残りを翌年度(平成30年度)に回すことにしたため。 かくして、当初は計画していなかった平成30年度に、夏休みを利用して一週間程度ドイツに実地調査に行くつもりである。
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