わが国において独自に成立・発展した「キリスト教学」(Christian Studies)の理念を再検討するために、19世紀ドイツの学問的神学の始点であるシュライアマハーと、終点であるトレルチに焦点を絞って、「キリスト教の≪文化科学≫としての神学」の可能性を、多角的な視点から検証してみた。 最大の成果は、シュライアマハーの『キリスト教信仰』Der christliche Glaubeの本邦初の全訳を完遂したことである。訳稿は2019年12月末に教文館に入稿し、2020年末までに刊行される運びとなっている。 二つ目の成果は、ドイツからトレルチ研究の第一人者であるF・W・グラーフ博士を日本に招待して、トレルチとリベラル・プロテスタンティズムの再検証を行ったことである。2019年10月1日から18日にかけての滞在中に、北海学園大学、京都大学、東京大学などで講演やシンポジウムを行い、またその間のさまざまな機会に意見交換をした。そしてその成果を『真理の多形性―F・W・グラーフ博士の来日記念講演集―』(北海学園大学出版会、2019年)として刊行した。全体の約三分の二を自ら翻訳し、長文の「解題」を執筆し、監修者として全体の編集に責任をもった。 それ以外には、9月に日本宗教学会第78回学術大会で口頭発表し、その内容を論文「シュライアマハーの『キリスト教信仰』についての一考察」を『人文論集』第68号、179-189頁に掲載した。また2、3年内に刊行予定の『新版キリスト教大事典』(教文館)に、シュライアマハーとトレルチを含む近代プロテスタント神学史関係の重要項目を多く執筆し、また『越境する宗教史』(2020年11月末刊行予定)のために、論文「トレルチの≪宗教史の神学≫の越境性」を執筆した。
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