当初掲げた研究課題は以下の通りであった。 (1)乳井の思想を研究するに際しては、その主著である『志学幼弁』の校訂作業が欠かせない。全集本をスキャンし、弘前市立図書館所蔵本(自筆本)をもって校訂した上で、註釈を付けて、翻刻する。(2)乳井に関する史料の徹底的調査と収集。乳井の著作に関しては、全集本に収録されていないものが確認されている。それらを調査し、撮影する。(3)弘前藩には膨大な公式日記(「藩日記」)が残されているが、その中で乳井に関する記事を洗い出して、可能な限りの詳細な年譜を作成する。(4)史料の解読と分析を通して乳井の施策と思想の連動性を解明する。その際に山鹿素行、荻生徂徠、太宰春台の思想との影響関係を考察する。(5)他領の藩政改革の事例を調査・研究して、乳井の思想と政策を日本思想史全体の中で位置づけて、地域からの江戸思想史を構想する。 この課題に基づき、前年度に引き続き調査と研究を遂行した。とりわけ、乳井が引用した原文の出典調査に精力を注入してこれを明らかにした。これによって、乳井の教養の背景がこれまで以上に明らかになった。特に乳井が太宰春台の著作と目される『産語』から多くを引用している点は注目に値し、今度の研究課題となろう。 成果の出版に向けて、注釈の精査と誤字脱字等々のCheckを繰り返し遂行して、完成原稿を作成した。入札で印刷製本会社を選定し、経費を圧縮する為に紙型等々を自前で整えて、入稿原稿を作成し、『乳井貢『志学幼弁』翻刻・注釈』と題して、A4サイズ357頁の報告冊子を完成した。 冊子は国立国会図書館、主要研究機関、主要大学図書館、関連する公立図書館に寄贈の手続きをとった。
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