最終年度にあたる平成30年度では、以下の3種の研究成果を得た。 ① カッパドキア教父における「キリストに倣うこと」の概念の起源を探求した。従来のMeredith解釈によればニュッサのグレゴリオス『至福について』がその初出箇所とされたが、可能な限りでの文献調査の結果、その解釈の正しさが確認された。少なくとも「キリストに倣うこと」がプラトン起源の「神に似ること」の延長線上に置かれるべき理念であると同時に、キリスト教固有の極めて重要な改変を伴った概念でもあることを当該文献の詳細な解読から明らかにすることができた。 ②「キリストに倣うこと」のために要請される「徳」の観念と、「神に似ること」のために従来要請されてきた「徳」観念との間には、いかなる相違/連続性があるのか、またそのことによる人間性の完成に関する理念にはどのような相違/連続性があるのか、その点に関して哲学的な面からのみならず、徳倫理学的な面からも解明することができた。 ③ カッパドキア三教父の全テキストにおいて、「神に似ること」と「キリストに倣うこと」という二つの鍵概念(及びその派生概念)の相互連関とそれが見出される文脈が、果たして両立可能な形で併存しているのか、それとも前者から後者への移行が見出されるのか、その点について具体的な用例分布の調査と個々の用例解釈を行なった。その結果、単に語義の上での両概念の繋がりにとどまらず、トポロジカルな「上昇」と「下降」、さらに哲学・神学的には「超越」と「内在」、より具体的には「禁欲修道」と「隣人愛」という思考類型が果たす理念的働きがギリシア哲学からギリシア教父(すなわち東方キリスト教)思想に至る過程でどのように変移していくのかを可能な限り克明に跡付けることができた。
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