研究課題/領域番号 |
16K02220
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研究機関 | 京都光華女子大学 |
研究代表者 |
長田 陽一 京都光華女子大学, 健康科学部, 教授 (20367957)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 発達障害 / イメージ / メタファー |
研究実績の概要 |
特性形容詞尺度(林文俊,1978ほか)〔20項目〕,批判的思考態度尺度(平山るみ・楠見孝,2004)〔33項目〕を用いて、〈発達障害〉という言葉の印象、および適切な情報を捉え多角的に検討・判断する合理的判断力や反省的思考力が,〈発達障害〉という言葉のイメージ形成に及ぼす影響を検討した。また,〈発達障害〉との関わりを,〔友人・家族〕といった身近な関係の有無,ボランティア等の〔活動〕を通した関わりの有無,授業等で発達障害について学んだ〔知識〕の有無に関して回答を求め,それぞれがイメージ形成に与える影響を検討した。 本調査の結果から,発達障害(者)との関わりの経験によって,一定の方向性をもった〈発達障害〉のイメージ形成が生じることが確認された。関わりの程度別では,ボランティア等の〔活動〕における関わりでは,「快活さ」や「偏狭さ」といった特性が〈発達障害〉概念と結びつきやすく,〔友人・家族〕という日常的で個別的な関わりでは,「慎重さ」といった特性と結びつく傾向が見られた。 他方,これまで発達障害(者)との関わりがなかった人については,〈発達障害〉に関するイメージ形成の方向性は見出されなかった。これにより,発達障害(者)との関わりのなさがpersonalityに関する偏見等に影響するという本研究の仮説は否定された。また,授業等で発達障害について学んだ〔知識〕の有無も,イメージ形成との関連がなかった。 以上により,実際の関わりの有無が〈発達障害〉概念におけるイメージ形成に影響する可能性が高いこと,また関わりの距離の違いにより,帰属させる特性が異なっていることが確認された。 批判的思考態度(「論理性の重視」「知的好奇心」「客観性の重視」)については,〈発達障害〉のイメージ形成と関連が認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は〈発達障害〉のイメージに関する調査研究を行ったが,当初の仮説とは異なり,これまで発達障害(者)との関わりがなかった人については,〈発達障害〉に関するイメージ形成の方向性は見出されなかった。他の研究ではこれと反対の結果も出ていることから,今回の結果を敷衍することには慎重でなくてはならないが,とはいえ本研究の進め方においては若干の修正が必要であり,これにより多少の遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
〈発達障害〉のイメージ形成においては,言葉や概念としての〈発達障害〉と,発達障害(者)との関わり経験が,影響を与えていると考えられる。本研究では,発達障害の人物でなく「言葉の印象」について評定を求めたが,アンケート調査において両者の区別が困難であったことは否めない。 今後,新たなアプローチとして,思想史的観点から〈発達障害〉について検討していきたい。「発達」や「障害」の概念は,近代以降の目的論的な人間観の影響を強く受けている。近現代人の価値観(人間主義的,個人主義的,合理主義的,あるいはロマン主義的)へのアンチテーゼという側面だけでなく,近現代の価値観とのキアスム(交錯配列)において,言葉・概念としての〈発達障害〉を検討し直す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していたタブレットや電子ペーパー等の電子機器を,研究の進捗状況を鑑みて次年度以降に変更したため。
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