研究課題/領域番号 |
16K02223
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
武田 裕紀 追手門学院大学, 基盤教育機構, 教授 (50351721)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ノエル神父 / パスカル / 次元 / 数学の確実性 |
研究実績の概要 |
本課題は、近代初期(とりわけメルセンヌの活躍し始めた1625年から『ポール・ロワイヤル論理学』第二版が刊行された1664年)における複雑な思潮の交差を、その方法と論証に焦点を当てて、明らかにしようというものである。2018年度は、第一に、1648年ごろに起こった、パスカルとノエル神父との空間概念にかんする論争を、ノエル神父が「次元」という語を使う際の用法に注目して分析した。このことから、いわゆる科学革命が進行した17世紀中葉においても、アリストテレス主義がいまだ残存していただけでなく、アリストテレスに反対するフィロポノス的思考もそれとともに生き残っていたこと、そして教育の現場で責任のある立場にいたノエル神父の証言から、こうした中世的な思惟枠が学校でも教え続けられていたことが明らかになった。 第二に、数学の確実性論争に関するシンポジウム「近代初期における数学の哲学」を、フランスから1名、日本から1名の専門家を招いて開催し、司会を務めた(主催:日本科学史学会阪神支部、本科研費は後援)。このシンポジウムの準備として、渡仏して発表者のラブアン氏と打ち合わせを行ったり、質問ペーパーを用意するなどの調査を行った。これによって、本課題のテーマである「近代初期における学知の方法と論証」の数学的な側面を深め、さらに16世紀のピコロミーニから17世紀末のライプニッツにいたるより長い歴史的パースペクティヴを得て、こうした知見を基に、2019年度のテーマに取り組む準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書では、4年計画のうち、2年目の早い段階で、メルセンヌの『学知の真理』とアルノーの『論理学』という、方法と論証に深くコミットした二つの著作を詳細に検討すると記載したが、メルセンヌについては、ようやく準備作業が整った段階であり、やや遅れているといわざるを得ない。他方、パスカルとノエル神父の「次元」概念の問題は、当初は構想になかったテーマであり、本研究課題全体にとっては、予想以上の展開といえる。こうした点を総合的に考慮するなら、計画はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
『学知の真理』(1625)に現れたメルセンヌの諸見解を、過度に体系化することなく論点を洗い出す形で整理する。体系的な理解が難しい理由は、この著作の多くの部分が、他人の学問的成果のいわば剽窃によって成り立っていることも明らかになってきたからである。さらにこの著作には、以前よりポプキン『懐疑主義の歴史』(1960)によって指摘されてきた懐疑主義的傾向だけでなく、申請者の見たところ、新プラトン主義的なアイデアもふんだんに盛り込まれており、さらにはアリストテレス主義の改革も見出すことができる。こうしたメルセンヌの特徴は、数学の確実性論争を参照することでより判明になると考えられる。2018年にこのための準備調査を完了できたので、今度は論考の執筆に入る。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月の海外出張の旅費が2019年度付になったこと、他の資金によって賄われた部分があったことによる。2019年度は、やや大規模な国内の研究会議を8月に開催する予定である。
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