本研究では、20世紀前半期に欧米で広範囲に強い影響力を振るった科学的人種主義が、日本にも深い影を及ぼしていたことについて、国内の部落問題を事例に明らかにした。具体的には、部落史研究の先駆者として知られる喜田貞吉の理解や、当該期に内務省が開始した感化救済事業などの社会改良政策が、人種の優劣にかんする理解に基礎づけられていたこと、そこに人類学、犯罪学、精神医学などの影響があったことを指摘した。またかかる統治の眼差しに対し、当事者たちが新天地を求めて国内外に移住した事例や、科学的人種主義に対抗する形で展開した思想や実践から、当該期のマイノリティ集団の生存戦略や文化創造についても考察した。
|