研究課題/領域番号 |
16K02225
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研究機関 | 鹿児島純心女子短期大学 |
研究代表者 |
佐々木 亘 鹿児島純心女子短期大学, その他部局等, 教授 (40211940)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 正義論 / 自然法論 / スコラ哲学 / アクィナス / アンセルムス / マルシリウス / ヌスバウム / セン |
研究実績の概要 |
平成29年度は、特に現代正義論とアクィナスとの関係に勢力を注いだ。マーサ・ヌスバウムの正義論を分析し、他者と正義に関するアクィナスとの共通性を明らかにした。そして、「他者と共同善-アクィナス正義論の現代的可能性-」という題で、9月16日に名古屋学院大学で開催された経済社会学会全国大会で発表。他者の意味を拡大させていくことは、自己と他者に共通する共同善をより普遍的なものにすることになるであろう。このような、他者の拡張性と共同善の普遍性のうちに、アクィナス正義論の現代的可能性を捉えることができると考えられる。じっさい、正義の範囲をいかに拡げていけるかは、法によって他者をどこまで普遍的に捉えていけるかにかかっている。さらに、その発表原稿に加筆して学会誌に投稿した(二名のレフェリーによって審査され、平成30年度の学会誌に掲載されることになった)。また、ヌスバウムと同様にケイパビリティ・アプローチの思想を展開しているアマルティア・センの正義論についても研究を進めてきた。 一方、スコラ哲学としては、カンタベリーのアンセルムスの正義論について研究した。平成29年3月に鹿児島大学で開催された西日本宗教学会第七回学術大会で発表した「アンセルムスによる神の存在証明ートマス・アクィナスとの関連からー」の発表原稿を加筆修正して学会誌に投稿した(二名のレフェリーによって審査され、平成30年度の学会誌に掲載されることになった)。また、パドヴァのマルシリウスとウィリアム・オッカムの正義論についても研究を深めていった。 さらに、南山大学から三つ目の博士号を受けた時の博士論文を、出版に向けて大幅に修正した(この著書は平成30年度中に教友社から刊行される予定である)。平成30年1月には研究紀要に二本の論文が掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、スコラ哲学と現代正義論とのかかわりに関する研究は、3年目の平成30年度から開始する予定であった。しかし、平成29年3月に名古屋工業大学で開催された科研費にもとづく正義論の研究会で、ヌスバウム研究で有名な神島裕子立命館大学教授の発表に触発され、直ちにヌスバウムの研究を開始した。その成果は学会発表という形で実現し、さらに研究対象をアマルティア・センにまで広げて展開している。 一方、アベラルドゥスに関しては、いろいろ検討した結果、アンセルムスのような体系的な正義論が見当たらないという判断にいたった。アベラルドゥスの専門家である永嶋哲也福岡歯科大学教授からもいろいろと助言をいただいた。今後、また検討する機会を持つが、とりあえず当面はアベラルドゥスを研究の対象からいったんはずすことにする。しかし、アンセルムスの正義論をもって「アクィナス以前」としても、全体的に大きな影響が及ぶとも思われない。むしろ「アクィナス以後」と現代正義論におけるアクィナス正義論の展開がきわめて重要である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、ヌスバウムとセンを比較対照しながら、ケイパビリティ・アプローチにおけるリスト化の問題を、アクィナスにおける自然法の規定という観点から検討する。9月の経済社会学会全国大会で、「ケイパビリティと自然法-アクィナス・セン・ヌスバウム-」という題で発表する予定である。今後、時代的には逆行することになるが、ジョン・ロールズの正義論も研究の射程に加える。 その一方、スコラ哲学としては、いよいよアクィナス以後の、パドヴァのマルシリウスとウィリアム・オッカムの正義論についても本格的に研究を進める。マルシリウスでは、人定法が強調されており、そこに中世から近世への展開を見ることもできよう。アクィナスの自然法とマルシリウスの人定法の比較研究は、現代正義論との関係を探る上でも興味深い。
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