20世紀前半のドイツ思想史を構想するとき、哲学の最深部を暗黙のうちに規定しながら、それゆえかえって哲学的言説の内部では明示しえない「哲学の外部」があることに気づく。それは、「詩」であり、とくにヘルダーリンやゲオルゲが重要だった。この点を、ユダヤ系のベンヤミンを参照軸としながら、ハイデガーにおいて検証しようとするのが、本研究である。つまり本研究の目的は、ゲオルゲ・クライスに関するハイデガーとベンヤミンの哲学的言説を追跡することによって、「哲学の外部=詩」という秘められた思想史的連関を明るみに出すことである。 本研究は、思想史的研究として、新歴史主義的な研究方法を採用する。それによれば、どんな偉大な哲学書であれ、時代といった巨大な物語テクストから、同時代の文学作品等の周縁的テクスト群をも学際的に配慮しつつ、通時的に読解されるのでなければならない。このような方法にしたがって、本研究は、20世紀初頭にゲオルゲ・クライスのうちで生起した「ヘルダーリン復興」というドイツ思想史において看過しえない出来事に着目し、その出来事が投げかけたハイデガーやベンヤミンへの波紋を徹底的に追跡し、「哲学の外部=詩」という秘められた思想史的連関を究明していくことにした。 以上の研究目的と研究方法によりながら、本研究は、主として海外現地調査を実施し、貴重な歴史的資料を収集してきた。とりわけ、ゲオルゲ派の「精神運動年鑑」等の専門古雑誌、後期ヘルダーリンを発見した文献学者へリングラートの遺著等、およそ1世紀前の文献を現地で渉猟することによって、さらにマールバッハの文学文書館でハイデガーの手稿を確認することによって、本研究を着実に前進させた。
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