研究課題/領域番号 |
16K02230
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
仏山 輝美 筑波大学, 芸術系, 教授 (70315274)
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研究分担者 |
北澤 茂夫 横浜美術大学, 美術学部, 教授 (10161473)
加藤 隆之 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (70572056)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ミッシュテクニック / 東アジア |
研究実績の概要 |
1 油彩画技法「ミッシュテクニック」が東アジア圏でいかに継承され実践されているかを確認するための現地調査として、台湾芸術大学、台湾師範大学、東海大学、彰化師範大学)における西洋画の教育内容について取材し、結果、台湾の美術教育機関においては同技法が継承されておらずまた西洋絵画の古典技法として受容されていないことを明らかにした。また、我が国における同技法とその継承について、絵画技法材用の権威である佐藤一郎東京芸術大学名誉教授の指導助言を得て、研究内容の深化と研究方法の展開を図った。一方、1970年代頃のウィーン美術アカデミーにおいて主導的な立場でミッシュテクニックを実践したと考えられるハンス・ヨルグ・フォーゲル氏に関する海外資料の収集を進めた。 2 ファン・アイクの描画技法として提案された仮説上の技法である、卵テンペラと油彩の併用(混合)技法「下層描きとしてのテンペラの使用と油彩による仕上げ」について制作実践を通して技法材料実験を展開した。具体的には、「白亜地もしくは白亜を用いた半吸収地の上に、主にテンペラによる下層描きおよび中描き、その後油彩による上描きおよび仕上げ、適宜油彩によるグラッシを施す」という方法を用いた。 3 基本的なミッシュテクニック技法とその他の混合技法(混合技法の応用的な使用も含む)の処方に関して、画面における表現上の相違点に重点を置いて作品制作の実践を通して取り組んだ。その結果、成果物としての作品資料や画像資料の収集を積み重ねていくことができている。また、相違点を明らかにする上で、それぞれの技法的特徴や長所・短所を資料とともに示すことができつつある。 4 日本の美術教育機関におけるミッシュテクニックの実践にかかわるアンケートの実施準備に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 東アジアにおけるミッシュテクニックの継承と実践に関する現地調査を進めるにあたって、我が国との間で近代以降もっとも緊密な文化芸術交流を行ってきた国の一つである台湾において、同技法の継承と実践の現状を把握できたことは大きな成果であり、今後も引き続き予定している東アジア圏における一連の現地調査は順調に滑り出したと言える。一方、国内におけるミッシュテクニックの継承と実践の現状を把握するための関係者へのインタビューは計画通りに進められたとは言いがたい。また、研究課題にとって極めて重要な海外の関連資料を入手することはできたが翻訳作業が滞っている状況である。 2 これまで、卵エマルジョンテンペラ、メチルセルローステンペラ、油絵の具と混合する卵テンペラ、卵テンペラと油彩の混合・併用技法、油彩の下層描きとしてのテンペラの効果について取り組んできた研究の成果と経験をもとに、「油彩の下層描きとしてのテンペラの効果」については一定の理解ができた。しかし、使用するオイルや樹脂の添加についての技法材料実験が不十分である。また、ファン・アイクが使用したとされる技法との関係性についての考察はこれからである。 3 我が国の美術教育機関におけるミッシュテクニックの処方例に関して試験的におこなった調査で、今後実施するアンケート調査による回収率の低さが今後の懸案事項として浮かび上がった。またミッシュテクニックが普及し、技法指導を実践している美術教育機関の数が膨大になり、その調査対象を精選する必要があり、回収率を高める工夫と合わせて検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1 東アジアにおけるミッシュテクニックの継承と実践に関する現地調査を中国、韓国、ベトナムなどで行う。一方、わが国に同技法を紹介してきた研究者の一人である佐藤一郎氏への取材は継続的に取り組む必要があり、かつ並行して同技法を実践する代表的な画家への取材も積極的に進める計画である。また、ミッシュテクニックが日本に継承される過程におけるキーマンであるハンス・ヨルグ・フォーゲル氏に関する調査をウィーン美術アカデミー教員の協力を得ながら取り組みたいと考えている。さらに、平成29年度内に、研究成果の中間報告をシンポジウムならびにワークショップで公開すると同時に、関係者との意見交換を行い考察を深めたい。 2 「油彩の下層描きとしてのテンペラの効果」について、継続して取り組み、その成果としての作品の質を高めて同技法の有用性を検証したいと考えている。また、使用するオイル(リンシード、ポピー、加熱したこれらのオイル)と、それに加える樹脂の効果について実験制作を通して研究する予定である。また、「絵画の科学」に記述されている卵黄への樹脂の添加による表現効果について試みたいと考えている。 3 平成29年度中に、国内の美術教育機関におけるミッシュテクニックの実践に関する調査内容を取りまとめて、シンポジウムにおいて発表する予定である。 また、継続してミッシュテクニックを用いた作品制作実践に取り組む。合わせて技法材料実験の成果を示す見本資料を作成し、場合によっては技法の部分を抜き出し発表時に閲覧者が理解しやすい処方見本資料の作成に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本国内における複数の関係者へのインタビューを計画通りに進められなかったことにより、旅費や謝金の執行が抑えられたため次年度使用額が生じた。インタビューの対象者が高齢であることや遠方に在住であること、またご本人が多忙であることもあって、面談のためのスケジュール調整が迅速に進められなかったことが要因である。また、質問事項の抽出と整理に時間がかかり、面談期日の検討が年度の後半にずれ込んだことも要因の背景にある。
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次年度使用額の使用計画 |
わが国においてミッシュテクニックを実践している作家、ウィーン幻想派を契機にミッシュテクニックを学んだ作家や教育者を対象としたインタビュー調査にかかる費用に次年度使用額を充て、より複数の証言を収集して、当初の計画以上に充実した調査結果を導きたいと考えている。熊本県、京都府、大阪府に在住の対象者を中心に、関東圏在住の数名へのインタビューを実施する。また関連資料の翻訳にかかる謝金(翻訳料)に一部を充てたいと考えている。
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