「共通感覚(koine aisthesis, sensus communis)」という古典古代から伝わる概念に二つの系譜があること、すなわち「共通の」という形容詞の意味の相違に応じて、五感に共通の感覚というアリストテレス以来の系譜と、他者と共通の見解(いわゆる常識)というキケロ以来のローマ的系譜とがあること、これは広く認められた通説である。この通説に対して本研究は、(a)これら二つの系譜が歴史的に交叉していることを明らかにするとともに、(b)この交叉のうちに再構成される問題圏が、20世紀末から〈感性論的転回〉を遂げつつある「美学」の現代的課題にとって中枢的な主題をなすことを示した。
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