平成30年度は、前年度に引き続き、(1)地歌の「芝居歌物」「浄瑠璃物」の原曲に関する歌舞伎・浄瑠璃側の資料の収集と調査、(2)地歌側の資料と歌舞伎側の資料の照合、(3)地歌の「芝居歌物」「浄瑠璃物」の作品分析を行うとともに、研究実施計画にそって、(4)上方文化と江戸文化の交流についての考察を行った。(1)(2)については、芝居歌物の分類を記述する最初の歌本である『歌系図』、芝居歌物と浄瑠璃物の詞章を掲載する大坂系の『糸のしらべ』類、京都系の『糸の節』類、収録作品数の多い『歌曲時習考』類などの調査と考察を中心に、詞章の内容を手掛かりに、歌舞伎や浄瑠璃との影響関係を調査した。『糸のしらべ』類、『糸の節』類、『歌曲時習考』類については、各作品の作曲年代を特定し、詞章の変遷を調査するために、年代の異なる諸本の収集を行った。また、作品分析の資料となる演奏資料の収集と音源のデジタル化を進めた。(3)(4)については、前年度に行った「レンボ」をめぐる上方文化と江戸文化の交流の考察をさらに推し進めた。「レンボ」は、江戸時代初期に流行した歌謡をルーツとする旋律型であり、上方文化の地歌、江戸文化の河東節、一中節、山田流箏曲、長唄などの作品に登場する。ルーツである江戸初期の流行歌謡の詞章については、江戸の流行歌謡を掲載する『吉原はやり小哥そうまくり』、上方で作られた三味線組歌《飛騨組》などが資料となり、その旋律は、上方で出版された『糸竹初心集』『糸竹大全』に掲載される楽譜が資料となる。その江戸初期の流行歌謡が上方の地歌作品にどのような影響を与えたのか、さらには、江戸の山田流箏曲などに影響を与えたのかを考察して、論文にまとめた。
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