平成30年度は、アメリカのニューヨーク・パブリック・ライブラリー(NYPL)にて、ジョン・ケージの自筆スケッチおよび所蔵楽譜の特別コレクションを閲覧し、1930年代~50年代前半の「偶然性の音楽」への移行期の作曲プロセスに関する資料を検討した。ここで得られた知見を踏まえて、ブーレーズ=ケージ往復書簡を再検討し、他の二次文献を参照しながら、1950年前後のブーレーズとケージの作曲法・作曲観における共通点と差異について、アントナン・アルトーの受容を一つの観点として比較考察し、論文として紀要に発表した。 本研究で具体的課題として設定したのは次の3点であった。A.ピエール・ブーレーズ《第2ピアノ・ソナタ》演奏の背景の検討、B.ステファン・ヴォルペ《バトル・ピース》とジョン・ケージ《易の音楽》の楽曲分析、C. デイヴィッド・チューダーとブーレーズ、ケージ等によるアントナン・アルトー受容状況の解明。3年間の研究期間を通して、AとCの検討により、システム性とシアター性(または偶然性)という二つの軸が、ブーレーズおよびケージの音楽の「時間」形成に重要な役割を果たしているという解釈を導き出すことができた。ここから、チューダーの音楽的時間の観念もまた、この二つの軸のバランスから考察することが有効と考えられる。ただし、Bの課題については、当初計画していた分析方法からは有効な結果を導くことが難しく継続課題として残った。したがって、今後、上記の考察の結果を実際の楽曲および演奏と照合し検証する作業に引き続き取り組む予定である。
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