研究課題/領域番号 |
16K02237
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
石田 圭子 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40529947)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルベルト・シュペーア / 廃墟理論の価値 / アレゴリー |
研究実績の概要 |
研究の初年度にあたる平成28年度には、おもにベンヤミンの弁証法的形象に関する調査およびゴットフリート・ベン、エルンスト・ユンガー、アルベルト・シュペーアに関する文献の収集と調査を行った。 前者についてはDas Passagen-Werkを中心にベンヤミンの著作を精読し、「弁証法的形象」の内実を明らかにするべく努め、それにおけるアレゴリーと神話の双方向性を詳らかにした。後者については、とくにシュペーアについての文献収集に努め、基本的文献から近年の研究に至るまで一時文献と二次文献を含む数多くの文献を収集した。それらを手掛かりにして「新首相官邸」から「ゲルマニア計画」に至るまでのシュペーアの建築の概要を把握することができた。同時に、彼の建築の核心にあると思われる「廃墟価値の理論」について調査を進め、その内容をある程度まで明らかにすることができた。 そうした調査の過程で、シュペーアの廃墟をめぐる創造力とこれまでの美学理論との比較(とりわけユベール・ロベールやジョン・ソーンといった18世紀のピクチャレスクの芸術家における「未来完了型」廃墟への想像力との比較)の重要性が明らかになった。それとともに、ベンヤミンのアレゴリー論との対比の重要性もあらためて浮かびあがってきた。 また、当初の研究計画には含まれていなかったが、ボリス・グロイスの著書『アート・パワー』に収録されている「英雄の身体:アドルフ・ヒトラーの芸術論」の翻訳を通じて、ヒトラーの芸術観について新たな知見を得ることができた。 以上の本年度の成果は、当初の予定通り、29年3月に行われた研究会(「アートと記憶」研究会 於武蔵大学)にて発表し、それを通じて問題点やあらたな課題を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度に予定していたのは、(1)ベンヤミンの「弁証法的形象」と同時代の芸術についての考察、(2)ベン、ユンガー、シュペーアに関する文献・資料の収集、(3)研究会での成果発表であったが、上記「研究実績の概要」に記したように、(1)、(2)、(3)について概ね達成することができた。今年度は研究時間の不足と予定の変更のために、ボーラーのPloetzlichkeit(『突然性』)の研究を進めることができなかったが、その代わりにボリス・グロイスによるヒトラーの芸術論についての知見を得られたことで、ある程度の埋め合わせができたと考える。ボーラーの研究については次年度以下の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる来年度は、シュペーアの「廃墟価値の理論」についてさらに研究を進める予定である。まずは、シュペーアの建築の特質について理解するために、引き続き彼の建築プランを詳細に調査し、理解を深める。また、上の「研究実績の概要」でも触れたように、今後18世紀の廃墟をめぐる美学についての文献を収集し、それとの比較を通じて、シュペーアの廃墟理論の特性を明らかにする。 その成果発表について、当初は「美学会」その他国内の学会で発表するという研究計画を立てていたが、本年6月末にベルリンで開催予定のベルリン自由大学美術史学科および立命館大学との共同ワークショップにて発表することに変更する(タイトルはFascist Theory of Ruin Valueとする予定)。また、その発表内容を論文にまとめ、国内もしくは国外の雑誌に投稿・発表することを予定している。 さらに、前年度に行うことのできなかったボーラーのPloetzlichkeitについての研究を進めるとともに、これまで申請者が研究してきた同時代のベンやユンガーとの比較を行い、時間意識という点に着目しながら、ワイマールからナチズムへと続く時代における政治と美学との関連性について明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に見積もっていた図書の購入費用および文献複写・取り寄せ費用と実際に購入した図書および文献複写・取り寄せの費用に差額が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の次年度使用額は、今年度の図書の購入費用もしくは文献複写・取り寄せ費用に当てる予定である。
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