研究課題/領域番号 |
16K02243
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研究機関 | 静岡文化芸術大学 |
研究代表者 |
奥中 康人 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 教授 (10448722)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 西洋音楽受容 / 管楽器 / 消防 / ラッパ |
研究実績の概要 |
近代日本におけるラッパの受容を(とりわけこれまで顧みられることのなかった消防の側面から)明らかにするため、平成28年度は、群馬県内の消防組に研究対象を限定し、群馬県立図書館、前橋市立図書館、国立国会図書館等に所蔵されている群馬県内の「史誌」(約80タイトル)、および群馬県内の消防団史等に記載された消防関係記事をピックアップ、さらに群馬県立文書館においても当時の史料を調査することを通して分析作業を進めた。 明治期群馬県の消防組が、ラッパの使用に関して先進的であることは予備調査でも明らかになっていたが、群馬県内各地の「史誌」類からは、それを具体的に裏付けることができる。それは単に「喇叭」が使用されたというだけでなく、同じように記述が多い「演習」「点検」の隊列運動などと結びつけられているところに特徴がある。 また、同時期の他県には見られない特徴として、消防用のラッパのメロディ(楽譜)がいくつか存在していた点があげられる。現時点では明治28~昭和15年までの間に、少なくとも8種のラッパ譜(タイトルのみが記載されているものも含む)が確認された。それぞれの楽曲を対照すると、昭和期にはほぼすべての楽曲を『陸軍喇叭譜』から流用することになるものの、明治期にはおそらく群馬オリジナルの消防ラッパ譜が流通していた。 群馬県という一地方の消防組におけるこうした現象は(これが成立した社会的背景等についての調査は今後の課題であるが)、東京に関心を集中させがちな従来の音楽史が、まったく取り上げてこなかった。だが、都市圏に住む上流階級ではなく、地方の青年が担った音楽文化であるだけでなく、音楽界・教育界とは異なる消防の領域における音楽文化の存在を示した点に重要性があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、採択が年度の後半になってからであったため、本来ならば「やや遅れている」と評価しなければならないところである(とくに8月9月に時間をとって資料収集を行う予定であったが、うまくいかなくなった)。しかしながら、平成28年度の研究対象であった群馬県に関しては、すでに一定の量の資料を所有していたこと、および、前年度までの科研費(長野県の事例研究)の調査研究の経験が役に立ち、大幅に時間短縮することが可能となったため、結果としては、おおむね順調に進展していると考えている。 もっとも、当初予定していた史誌類の閲覧作業に関しては(これまでの調査で、おおよその結果はすでに出ているものの)、すべて完了したわけではなく、予定どおり作業を継続しなければならない。 また、群馬県立文書館に所蔵されている明治期の史料群から、本研究課題にとって必要なデータを抽出するのには、思いのほか時間を必要とすることが判明し、次年度にもこの作業も継続することになる(可能であれば、8月までには完了することを予定している)。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度からの継続課題として、残余の群馬県内の史誌類の閲覧、および県立文書館の明治期史料の解析を進めつつ、消防組を管轄していた警察にも視野を広げる。 同時に、当初の予定通り、大阪府における消防組の事例へと調査対象を移し、平成28年度と同様の方法によって、明治期のラッパ受容の実態を明らかにする。 群馬県とは異なり大都市である大阪府は、出版物の数が多くなることが予想されるが、これまでの調査の経験から、適宜必要な資料をピックアップすることによって、年度内に分析を終えることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたいくつかの資料複写が、古書として購入することができたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の調査対象である大阪府資料の複写費として使用する。
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