【最終年度】最終年度は、本研究の資料調査によって新たにその存在を確認することができた明治初期に使用されたと考えられるラッパ譜の個々の楽曲についての分析を行った。これまで、明治初期の軍隊のラッパは「陸軍はフランスのラッパ譜」を用いたことは知られていたものの、その内実についてはほとんど明らかになっていなかった。しかし、この新たに確認された三冊の楽譜(靖国偕行文庫所蔵の二冊の手稿譜、および名古屋鎮台で用いられたラッパ譜)に収録されている楽曲を分析したところ、約7割は確かにフランスのラッパ譜に由来するものの、残りの3割は日本で作られた可能性が高いことが明らかになった(そこには、短い信号だけでなく、長大な行進曲も含まれる)。 【研究期間全体】これまでの明治期の音楽史は、幕末維新期のラッパの導入にこそ言及するものの、それ以降の展開については関心を示さなかったため、その実態はまったく不明であった。そこで本研究は、ローカルな消防(とりわけ明治後期の群馬県)で用いられたラッパ譜とその変遷、また、消防ラッパに影響を与えた明治前期の陸軍のラッパ譜について、文献資料と楽譜資料を併用して、その実態を具体的に明らかにしようと試みた。明治10年代の各鎮台ではフランスのラッパ譜が実際に鳴り響き、のちにそれが消防に転用され、明治20年代末にはローカルな消防ラッパ手のレパートリーになっていたこと、それと同時に、すでに明治10年代には、陸軍オリジナルの(おそらく御雇外国人のフランス人ラッパ手に作らせた)ラッパ譜も存在していたことなどが判明した。このことは、一般的には「まだ洋楽受容の初期段階」としかみなされていない明治期の音楽史の解明にとって非常に意義があると考えられる。
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