平成30年度は『三芝居楽屋雑書』および「新梓 猿若年代記」の関連史料の収集と囃子関連項目の検討を中心に行い、本研究の総括として報告書を作成した。 国立国会図書館には『三芝居楽屋雑書』という書名の写本が二冊存在する(甲本、乙本)。甲本は外題・内題に「三芝居楽屋雑書」、奥書に「天保六未年仲夏写之 八橋堂」とあり、天保6年(1835)5月成立と知られる。内容は「三芝居年中行事」「稽古の次第」「年代記」「古来囃子外座附名目大略」「中古達人唄三弦囃子方名目」等から成る。一方、乙本は外題に題箋はなく、内題に「三芝居楽屋雑書」、奥書に「八橋主人著 終」とある。項目は概ね甲本に等しいが、書写内容から推測するに甲本あるいはその類本の転写本である可能性が高い。また以上二冊とは別に、「改正 役者年暦珍重記/新板 三芝居楽屋雑書」という両面一枚刷の版本が存在する(個人蔵他)。内容は甲本に酷似するが、一部異同が確認され、奥書の代わりに「並木舎校」等とある。西沢一鳳軒『伝奇作書』によれば、作者は瀬川如皐とするがその根拠は不明である。先の甲本と一枚摺との関係も不詳だが、いずれもその基となる原本の存在が推察される。なおこれらの内容は、三升屋二三治『賀久屋寿々免』(1845年)との共通部分を見出すこともできる。 一方、「新梓 猿若年代記」(架蔵他)も一枚刷の版本で、成立は安政5年(1858)と知られる。作者は幕末から明治初期の戯作者・傭書家の山閑人交来。本史料も最前の史料と同じ項目が列挙され、場合によっては内容が増補されている。 以上、今年度検討した各史料には相互に関連が見られ、狂言作者や芝居関係者らが共有していた知識の蓄積を垣間見ることができる。その中には歌舞伎囃子に関する項目が備わっていたことも改めて注目しておきたい。ただし、各史料の影響関係等の詳細な検討は今後の課題として残った。
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