研究課題/領域番号 |
16K02248
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研究機関 | 東日本国際大学 |
研究代表者 |
田中 みわ子 東日本国際大学, 健康福祉学部, 准教授 (10581093)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アール・ディフェランシエ / 障害者アート / アウトサイダー・アート / 障害の美学 / 知的障害 |
研究実績の概要 |
本研究は、障害者の芸術表現における「美学」が生起する創造的な場について、実証的かつ理論的に調査研究を行うことを目的とするものである。初年度となる平成28年度は、主として障害者アートおよび障害者の芸術表現についての基礎資料を整理するとともに、障害のあるアーティストを取り巻いている社会的、文化的、政治的状況について把握するために、ヨーロッパ全体における障害者アートの潮流の分析に努めた。 障害者アートの潮流は、主に4つに分類される。①アール・ブリュットおよびアウトサイダー・アートをはじめとする美術史における潮流。ここでは作品評価を重視することによる芸術的価値の追求と、作家と創作方法の特殊性の強調がみられる。②アート・セラピーを中心とする医療やケアの分野における潮流。ここでは、芸術は治療的効果をもたらすものであり、作品よりも作家自身に関心が向けられ、作品は作家の内面世界や症状の投影と捉えられる。③コンタクト・インプロヴィゼーションなどの身体表現に代表されるコミュニティ・アートの潮流。日常的な余暇活動や芸術活動の領域にしばしばみられるものであり、障害の有無にかかわらず誰もが参加できるものとして芸術が実践され、共同体的価値の追求や実現がみられる。④障害のある当事者自身が主体となる芸術運動や実践としてのディスアビリティ・アートの潮流。障害の経験を反映していることを核とする芸術活動や作品を提示することにより、既存の障害観や文化的価値観を問い直す試みとして位置づけられる。 こうした4つの潮流をふまえ、ヨーロッパにおける美術界のひとつの潮流として生まれたベルギーの知的障害者によるクレアムの実践が、絵画、音楽、演劇、サーカスなどへと発展していくなかでどのように障害の「美学」が生起し、またそれを感受する文化的土壌が育まれたのかを探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の遅延の最大の理由は、研究実施計画に記載した実地調査の延期によるものである。これは、他業務と重なり日程調整が予定通りに運ばなかったことによる。 本年度の目的は、1979年に生まれたアール・ディフェランシエが、ヨーロッパを中心にどのように独自にネットワークを築いてきたのかを探るところにあった。この点については、文献資料や過去の調査データから補うことで分析作業を進めた。また、調査先団体の状況については、メールマガジン等を通して情報収集に努めた。以上により、本年度の目的はほぼ達成しつつあるものの、アール・ディフェランシエの国際的展開を追跡するにはデータが不十分である。障害者アートを取り巻く状況は、国内外において目まぐるしく変化している。本研究が解明を目指している創造的な場の生成も、1970年代以後の社会的、文化的、政治的状況についての情報収集のみでは捉えきれず、実践者たちの生の声をできる限り聞き取りたいと考えている。 本年度の大きな成果としては、12月に行われたシンポジウムでの発表(於駿河台大学)において、コメンテーターの方々から貴重な助言を得られたことが挙げられる。本研究ではこれまで、障害者の芸術表現における「美学」が生起する創造的な場を、「即興的身体」と名づけて分析を進めていたが、この「即興的身体」には、身体の能動性と受動性のみならず、意識と無意識との関係性および、私の身体と他人の身体との交錯といった観点も含まれている。今後、さらに研究を発展させていくうえでは、「即興的身体」についての理論的な位置づけも不可欠であるとの見解に至っており、速やかに研究を遂行していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果を踏まえ、「アール・ディフェランシエ」を他の障害者アートの潮流と関連づけて調査を行う。前年度予定していた実地調査を実施するため、研究計画の調査地を一部変更し、ベルギーおよびイギリスでの調査を予定している。 障害者の芸術表現にみられる創造的な場のありようのミクロな分析・解明作業を引き続き行いつつ、文化的背景と関連づけて実証的かつ理論的に究明することが今後の大きな課題となる。その際、美術史の文脈と障害学の文脈を交差させつつ、アール・ディフェランシエの位置づけを明確にする。 具体的な方策としては、研究の中間発表を行い、適宜、研究者や障害者アートの研究者と意見交換を行っていく。研究会での研究報告や調査関係者へのフィードバックを実施し、成果を論文としてまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実地調査を次年度に延期したことにより、それに係る費用について差額が生じている。所属機関で使用しているパソコンの不具合に伴い、急遽購入することとなったため、物品費にも差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
実地調査費用として使用する。また調査に必要な物品等の購入に充てる。
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