研究実績の概要 |
本研究は、障害者の芸術表現における「美学」が生起する創造的な場について実証的かつ理論的に調査分析を行うものである。障害者の芸術表現における美学が、表現の創造現場における人々の相互関係性の中から創出・形成されていることを示し、そのような創造的な場が形成される文化的背景および要因を明らかにすることを、本研究の目的として取り組んだ。 最終年度にあたる本年度は、ベルギーの知的障害者による芸術団体クレアムの提唱した「アール・ディフェランシエ」を取り巻く社会的、文化的、政治的状況について総括することに努めた。クレアムは、1979年の当初において美術界の潮流である「アール・ブリュット(生の芸術)」や「アウトサイダー・アート」とは異なる芸術として「アール・ディフェランシエ」を提唱することにより、ヨーロッパを中心とした独自のネットワークを築いてきた。なお、障害の美学の現状について検証するために、アメリカで開催されたThe 2nd International Conference on Disability Studies, Arts, and Education(於Moore College of Art & Design、2019年10月3-5日)に参加し、障害学における障害の「美学」が、主に身体障害の経験から生み出され、新たな潮流を形成していることが理解された(形態の美学)。他方、クレアムを嚆矢とする知的障害のあるアーティストは、指導者であるアニマトゥールとの関係性のなかから美学を生み出しており、創造性それ自体を提示するところに美学が位置づけられている(即興の美学)。 現在、本研究の成果を研究論文としてまとめているところであり、できるだけ速やかに発表する。また障害の「美学」には、障害観および身体観が反映されていることも見出され、今後の研究の仮説として取り組んでいく。
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