研究課題/領域番号 |
16K02252
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研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
白石 美雪 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (60298023)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本の音楽評論の歴史 / 音楽論壇 / 大田黒元雄 / 『音楽と文学』 / 日本諸学振興委員会芸術学会 |
研究実績の概要 |
5年にわたる研究の第5年度として、これまでの調査をより精査し、研究としてまとめる作業と図書出版のための原稿執筆に注力した。しかし、新型コロナウィルス対策で図書館・資料館の利用停止や制限が相次ぎ、作業が進捗しなかった。このため、当該出版にむけては執筆できた部分が全体の3分の2程度で、最終的な研究成果の公表に至らず、研究期間の延長(2021年度)を申請した。 当年はあらためて大正から昭和初期にかけての音楽雑誌と新聞批評の調査を詳しく行うと同時に、当時、音楽評論家、音楽記者、音楽研究者として認知されていた人物のリストを作成した。研究申請時においては音楽評論家一覧のみを考えていたが、音楽評論家と同様に音楽記者の記事も注目を集めていること、また、雑誌対談等にもよく登場していることから、評論家と記者の双方に注目することが必要と判断した。また、音楽研究者という肩書は当時にあっても音楽評論家と混同されている側面が見受けられるものの、『近代日本音楽年鑑』の名簿、『音楽世界』等の雑誌での記事では書き分けられていたので、3つの区分でリスト化した。 当初計画にあった7名の音楽評論家のうち、当年度は大田黒元雄の『音楽と文学』の詳細な分析を行い、当時、楽壇を牽引する存在としての音楽評論家が登場した様子、すなわち音楽論壇の成立を明らかにした。その結果をまとめた「楽壇の画期としての同人雑誌―『音楽と文学』とその周辺」は著書で発表する予定である。さらに、音楽の価値をめぐる評価において、音楽評論家と日本人作曲家の間に起った論争を読み直し、当初計画にはなかった価値観の分裂についても考察した。また、音楽学の成立をめぐる流れとして、前年に続き、日本諸学振興委員会芸術学会の形成過程及び発表内容の分析を行うと同時に、東京藝術大学楽理科の開設以前に音楽学者を輩出していた東京大学美学芸術学出身者についても調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表的な評論家のうち、大田黒元雄、遠山一行、吉田秀和のそれぞれについて、著作や新聞の批評、雑誌記事などの形で残した著作に一通り目を通す作業に時間がかかっているが、当初は予定していなかった音楽記者についてのリストの作成にも取り組んだ。また、同じく当初予定とは異なり、音楽の価値を決める集団としての音楽論壇において、音楽評論家のみならず、日本の作曲家との対立関係が成立したことについての視点から、雑誌・新聞記事の調査にも取り組んだ。当初の予定を超えて、研究期間の延長を申請したのは研究の過程においてより多くの調査項目に気づいたためである。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の期間延長(第6年度)において、これまでの研究課程から生じた調査項目について、さらに調べを継続すると同時に、当初からの予定であった書籍の執筆作業を着実に進めて、研究成果の発表に取り組む。図書館、資料館等の人数、時間制限は今年度も続いているため、調査については時間がかかることが想定される。したがって、これまでに資料収集が進んでいる音楽評論家、音楽記者、音楽研究者のリスト化を推進し、また、戦後に活躍した音楽評論家、音楽学者等の入手可能な著作の分析結果のまとめを、調査と並行して行う。なお、書籍においては、本科研に関連して執筆した紀要論文に基づく加筆訂正や、2021年度までに達成した新たな雑誌メディア研究などの成果を含むものである。 本研究の成果は図書(タイトル未定)として、2022年3月までに刊行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究をとりまとめる段階にあって、これまでの調査を精査して、より精密なデータと記述が必要とされたが、コロナ禍での国立国会図書館、遠山一行記念日本近代音楽館等の閉館および時間や人数制限の中での開館による資料閲覧と複写に通常よりも膨大な時間を要したことが遅れの大きな要因である。引き続き、書籍の購入、調査のための複写、旅費および資料整理のアルバイトに使う予定である。
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