研究実績の概要 |
本研究は、オペラという外来文化(芸術)が日本で受容される過程を、舞台美術という視覚的、造形的側面から明らかにしようという試みである。 前年度までの成果である戦後65年間(1951年~2015年)のオペラの上演記録を図表等で視覚化することで、今まで見えにくかった外来文化(オペラ芸術)の移入の実態を明らかにし、外来文化に対する日本特有の文化風土の特徴を考察した。また、公演回数の上位10作品は、戦後65年間の総公演回数(1,628回)の約半数(797回)を占めることから、オペラの演劇的な側面からではあるが、日本人の嗜好傾向が読み取れる資料となった。さらに、上位10作品をサンプルとして、オペラの演劇的側面である物語の構造の分析と考察を行った。その結果、劇進行による物語の進展と登場人物の心的な振幅を表すアリア等の間に同軌性が認められ、「オペラ芸術は、物語を音楽で表す上演芸術」ということを裏付ける視覚資料となった。 本研究の最終年度は、劇空間の変遷について考察するため、戦後のオペラ美術を牽引してきたひとりである三林亮太郎氏の作品と、上演記録のデータ分析を基に収集した上演写真を時系列に対照させ、比較検討を行った。その結果、日本におけるオペラの受容の変遷を概観する視覚資料を作成することができた。これにより、舞台美術の視点からという独自の切り口から見た日本のオペラ文化の受容、という当初の目的を達成することが出来た。 我が国のオペラ研究は、上演記録の整理とオペラ芸術の音楽性についての論評及び演出的な解説が主体であったが、本研究の成果が加わることで先行するオペラ研究と相まって、より総合的なオペラ研究が可能となった。 ※本研究の基礎データである公演回数の算出にあたっては、戦後のオペラを牽引してきた藤原歌劇団、二期会、新国立劇場、その他の主要公演団体、海外歌劇場日本公演に限った。
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