研究課題/領域番号 |
16K02257
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
井口 はる菜 関西外国語大学, 外国語学部, 講師 (60770120)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 三味線音楽 / 古楽譜 / 三味線組歌 |
研究実績の概要 |
まず、本研究に必要な三味線組歌柳川流の楽譜資料を入手することに取りかかり始めたが、京都府立総合資料館は平成28年9月14日より閉館することが決まっていたため、なるべく早く研究に必要な楽譜データ全てを入手しておかなければ間に合わなくなると思い、該当する楽譜の複写資料を入手した。 当初、これらの三味線の古楽譜の解読作業を単独でおこなっていて、この先どのように作業を進めていくべきか、少々行き詰まっていた時期があった。そうした中で、柳川流三味線組歌を伝承している演奏家を訪ねて、柳川流の楽曲や資料の旧所蔵者・津田道子氏の生前について取材をさせていただいたことをきっかけに、古楽譜の内容を精読するためにも、まずは古楽譜に記されている情報が実際にどのような演奏と結びつくのか、また古楽譜と現行譜との相違点はどのような箇所に見られるかなど、解読した譜と現行曲とを比較しながら古楽譜の内容を精読する作業に取りかかった。その際、柳川流の演奏家に立ち会っていただき、実際に柳川三味線で音を出しながら、古楽譜の情報を聴覚でも確認しながら読み進めることにした。 古楽譜を解読する一つの手がかりとして、現行曲ではないが、現在京都では津田道子氏による復元曲《千代の惠》が演奏されており、表組第一曲である《琉球》との同時演奏が可能ということから、《千代の惠》の古楽譜と復原された楽譜を比較すれば、津田道子氏が古楽譜をどのように解釈したかを知ることができる。また、演奏者への取材時期の直前に演奏会で演奏された楽曲を精読し比較することによって、ある程度古楽譜解読の手がかりを得ることが出来た。 楽譜以外の情報についても順を追って読み進めているが、現時点では特筆すべき情報は特に見出せていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、古楽譜を精読して口三味線譜を現行の家庭式楽譜に書き改めて整理、復元し、さらに可能であればそれらを五線譜化するところまでを考えていたが、古楽譜を解読する作業に手間取り、また、複数の古楽譜を比較しながら読み進めていく作業には相当な時間を要している。なぜなら、この研究で取り扱っている楽譜を読むには、写本を読むというだけでなく、音楽的な知識、それも地歌の三味線の演奏に関する知識がなければ、現行の楽譜の様式に書き表す作業までおこなうのは難しい。そのため、楽譜の解読を分担することが出来る人材がなかなか見つからず、当面は研究代表者一人でこつこつと読み進めるよりほかに手段がないのである。 そこで、五線譜化についてはひとまず先送りにすることにし、①口三味線譜をまず読むこと、②その後そのデータを現行の楽譜の様式に書き表してみることを、本研究の基盤としてじっくりおこなうことにしようとした。更に、③楽譜以外の情報を翻刻し諸本の異同を整理することも並行しておこなうことにした。 具体的には、柳川流で現行している《飛騨組》《早舟》、及び津田道子氏の復元による《千代の惠》については、古楽譜から読みとった情報と実際の演奏とを比較することができた。その比較研究によって、古楽譜解読の手がかりをある程度得ることが出来たように思う。従って平成29年度には、古楽譜と現行譜及び復元譜とを読み合わせるときに得た知識を基盤にして、柳川流ではすでに廃絶している曲の中からまず《乱後夜》《晴嵐》を復元し演奏を試みてみることに計画を変更した。 この2曲の古楽譜解読にあたっては『三絃独譜』に錯綴があることが判明、正しい綴じ順を探るには古楽譜の内容の解読が必要不可欠であることが本研究で明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、柳川流では廃絶してしまっているが、大阪で伝承されている野川流において同時演奏が可能であると伝えられている《乱後夜》《晴嵐》の2曲の古楽譜を解読し、復元演奏を試みてみたいと考えている。この2曲については、柳川流では廃絶しているといえども、野川流には現行しているので、復元する意味が無いと思われる意見もあるかもしれないが、現行野川流の《晴嵐》は、組歌であるにもかかわらず歌の部分は伝承されておらず、手事にあたる部分が伝わるのみである。一方、柳川流の『五線録』をはじめとする古楽譜には、《晴嵐》の歌が付けられている部分の三味線の楽譜が書かれており、その旋律を復元してみる意味はあると考えた。 まずは《乱後夜》《晴嵐》の2曲の復元作業に取りかかる。両曲の歌の復元については、古楽譜から得られる情報は、歌詞とそれらを三味線の手のどのタイミングに歌うかということのみで、旋律に関する情報は三味線の手の旋律に頼る以外は、野川流三味線組歌の《乱後夜》の歌の旋律を参考にすることしかできない。従って、三味線の手の旋律の復元作業を慎重におこなうことを優先させ、現行の家庭式楽譜のかたちで整理し、その作業のために解読した楽譜のデータについても、諸本の異同を比較してまとめておく。『三絃独譜』の錯綴の問題も明らかにする。可能ならば、《乱後夜》《晴嵐》以外の曲についても、同様の作業をおこなう。 また、前年度に現行曲との比較をおこなった曲についても、その作業で解読したデータ等の整理をおこない、解読譜を現行の家庭式楽譜に書き改めて、現行曲との異同、諸本間での異同をそれぞれまとめる。解読譜の五線譜化については、作業に着手できるようにする。楽譜以外の情報を翻刻し、諸本の異同を整理する作業も並行しておこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
自らが主軸となって、科学研究費のような助成金を受けて研究をおこなうという経験が初めてであるため、当初の計画通りに事態が進まないことに大きな戸惑いを感じながら研究を進めているのが正直なところである。研究に着手するまでは、京都府立総合資料館所蔵の調査対象資料を複写するにあたり、自ら画像撮影をおこない、写真として印刷しなければならないと想定しており、そのためのカメラ購入など資料複写にかかる費用を算出、計画していたが、資料館の複写サービスにより必要な資料複写データをすべて得られたため、予定していたより大幅に安価におさえられた。また、古楽譜の解読作業に手間取っており、楽譜の五線譜化にも着手できていないため、予定していた物品購入費等をじゅうぶんに使用できていない状況である。
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次年度使用額の使用計画 |
研究が遅れている部分の作業を取り戻すために、前年度未使用額を主に人件費・謝金に充てて使用する予定である。
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