研究課題/領域番号 |
16K02259
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
野田 由美意 北見工業大学, 工学部, 准教授 (00537079)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 美術史 / ナチス時代 / デュッセルドルフ近代美術 |
研究実績の概要 |
1919年に結成されたデュッセルドルフの近代芸術家グループ「若きラインラント」のメンバーが、ナチスの芸術政策に対して、抵抗するのかそれとも順応するのかどのような選択をし、芸術活動を行ったのかについての研究で、平成28年度は次のことを集中的に取り組んだ。 「若きラインラント」の主要メンバーで、ナチスに明確な抵抗を試みた少数派の画家の一人、オットー・パンコックの作品と芸術活動を検証した。パンコックは1933-1934年に、ナチスの人種差別政策に抗して、その対象となったジンティを一部モデルに連作《受難》を制作した。また展覧会での発表や作品集の刊行を試みた結果、ナチスに芸術活動の禁止を命じられた。研究代表者は、この時代最初期のまとまった成果であると同時に、ナチスに対する抵抗のきっかけとなったこの連作《受難》を取り上げ、その制作の背景を追究した。 作品と一次文献を最も所蔵するパンコック美術館ハウス・エセルトで、《受難》やナチス時代のパンコックにかかわる資料、作品の調査を行った。その調査や従来の研究成果を踏まえつつ、1.展覧会・出版による作品の公表とナチスの迫害の経緯、2.従来の研究では精査され尽くしていない、デューラーなどルネサンスの受難図や、パンコックと同時代の画家たちの受難図との比較を含めた連作《受難》の構成、3.《受難》における聖母マリアなどいくつかの人物像とジンティ等のモデルとの関係性を中心に研究した。その分析の結果、パンコックが《受難》を通じ、目の前で起きている現実にドイツ国民を直面させ、国民を幻惑するナチスの正体を暴いて彼らの目を覚ますことを意図したことが導き出された。この研究成果を成城美学美術史学会第2回例会(平成29年年3月18日)で口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年の研究課題として掲げた「パンコックの木炭画連作《受難》:制作の背景」についての研究は、おおむね順調に進展している。その研究成果を平成29年3月18日の成城美学美術史学会第2回例会で口頭発表したが、現在その内容を論文としてまとめる作業をしている。平成29年度中に学会誌に投稿する予定である。 それと同時に、平成29年度の研究課題である「カール・シュヴェーズィヒの線描画連作《シュレーゲル地下牢》:制作の背景」について、資料蒐集等、研究に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
「若きラインラント」メンバーのナチス時代の芸術活動に関する研究として、平成29年度には、カール・シュヴェーズィヒに注目する。シュヴェーズィヒはKPDに所属しナチスに対する抵抗運動を行ったことから、1933年に逮捕され、デュッセルドルフの「シュレーゲル地下牢」で拷問を受けた。解放後ベルギーに渡って、人々がいまだ気づいていないナチスの恐怖政治の実態を知らしめるべく、連作《シュレーゲル地下牢》など、自ら経験した拷問の様子など収容所での出来事を戯画的な具象絵画で表現し、展示活動を行った。しかし1940年ドイツのベルギー侵攻を機に再び捉えられ、敗戦まで収容所を転々とする憂き目にあう。その間、命の危険にさらされながらもむしろ制作熱は途絶えず、世間にナチスの罪を糾弾してドイツの人々の目を覚まさせるための作品を描き続けた。しかし戦後も彼の作品は省みられることなく、その再評価と資料の発掘は「歴史家論争」の起こった1980年代に始まる。今日に至るシュヴェーズィヒの研究では、彼の遺した手記に基づいてナチス時代の活動の経緯を追究することに主眼が置かれ、作品自体の分析がいまだ不十分といえる。研究代表者は特に連作《シュレーゲル地下牢》を中心に作品の分析を行い、制作の背景を考察する。その際「若きラインラント」のメンバーで同じくKPDに所属し交友関係にあったユーロ・レヴィンやペーター・ルートヴィヒスなどの作品や活動も比較の対象とし、歴史記録としての絵画の意義や、彼らの作品における芸術の批判的な力について追究する。そのためにデュッセルドにルフ市立博物館等で作品と資料の調査を行う。またその調査に基づいて学会発表と論文の作成を行う。 平成30年度には「「若きラインラント」の画家たちとナチス時代のデュッセルドルフにおける展覧会」、平成31年度には「「若きラインラント」の画家たちと個人コレクター」について研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な物品等の購入のために適正に科学研究費を使用した結果、微額の残高が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、海外調査にあたって交通費に充てる。
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