研究課題
プロテスタント影響が強く残る北部ネーデルラント/オランダでは、教会など宗教施設に礼拝のための宗教画が飾られることはなくなり、壁は白いままであった。イコノクラスムは芸術にも深刻な影響を与えることになる。イコノクラスム以降も宗教画は描かれたが、それらは礼拝のためではなく、美的な対象として、つまり美術愛好家のコレクションのためのものであった。その一方で、風景画、静物画、風俗画といった絵画ジャンルが大きく伸びていくことになった。一七世紀オランダ絵画の誕生である。これ以前の絵画に日常的な場面が描かれていても、「聖家族」など宗教主題の点景にすぎず、それ自体で主題として自立しているわけではなかったのである。こうしたオランダ絵画が受容者(消費者)の手に届くようになるには、それまでとは比較にならないくらい美術市場の役割が重要になってくる。需給関係ばかりでなく、社会関係資本に立脚した広義の市場は、芸術家の自由を束縛することになるが、その一方で競争によって近代芸術家にとって最大級の価値ともいえる独創性を生みだす「場」となったのである。美術市場を戦略的に利用したレンブラントの作品は、したがって、「レンブラント」というブランドネームで作品を注文主や「市場」に供給した。その場合、注目を集めることのできる要素はいかなるものであっても利用した。しかしその手段は極端な価値を提起してみせるというものであった。それ故ときとしてスキャンダルの種となった。しかしレンブラントはこのスキャンダルを価値ととらえていた節がある。人が看過していくところに価値を発見し、それを意味づけることで芸術的創造と評価したり、美術商であればそれを値段に反映させたりする。レンブラントという芸術家は、委嘱者と悶着を起こすことで、自己の芸術がもつインパクトを推しはかり、そのトラブルさえも独創性の証にするという特徴があった。
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C. Craig, E. Fongaro, A. Tollini (eds.), Furusato: 'Home' at the Nexus of History, Art, Society, and Self, Mimesis, Milan
巻: 4 ページ: 45-58
日本顔学会誌
巻: 19 ページ: 5-16