研究課題/領域番号 |
16K02261
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長岡 龍作 東北大学, 文学研究科, 教授 (70189108)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 天界 / 十地思想 / 蓮華蔵世界 / 神仙世界 / 補陀落山浄土 |
研究実績の概要 |
年度当初の計画に基づき、(1)「天界」の意味、(2)「天界」表象の構造、(3)屏風・障子の機能、の各項目によって調査研究を進めた。 (1)では、『華厳経』に基づく「十地思想」と「蓮華蔵世界」・「天界」への往生についての思想的な検討を踏まえ、『国家珍宝帳』(正倉院文書)、空海『秘蔵宝鑰』の読解を引き続きおこない、奈良時代ならびに平安時代初期の思想状況を確認した。同時に、空海による草創期高野山の造営思想を検討し、その成果を「空海の思想と草創期高野山の伽藍と仏像」(『空海と高野山の至宝』展カタログ 24-32頁 仙台市博物館 2017年7月)にまとめた。 (2)では、「天界」表象の典拠としての『正法念処経』をあらためて読解するとともに、「天界」と「神仙世界」の習合の構造を、以下の各カテゴリーにおける事例調査を継続した。①絵巻物:神仙世界の表象としての信貴山の検討(信貴山縁起絵巻)、王をめぐる画中画の検討(伴大納言絵巻・吉備入唐絵巻)。絵画における異国表象の構造の検討(玄奘三蔵絵)②神祇表象と神仙世界表象との習合(一遍聖絵)。③仏教的浄土観と神仙思想(坂東三十三所札所における補陀落山浄土の表象)。④死後世界の表象―墳墓美術の検討(中国古代、および唐~五代における墳墓壁画)。 (3)では、正倉院宝物の屏風の意義をあらためて検討し、その成果を「正倉院の屏風と蓮華蔵世界」(正倉院展講演会 奈良国立博物館 2017年11月11日)として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は以下の各項目について調査をおこなった。()内は調査地 ①絵巻物:法然上人絵伝、病草紙、玄奘三蔵絵(サントリー美術館)。 ②神祇表象と神仙世界表象との習合:海北友松「月下渓流図屏風」(京都国立博物館)、萬鐵五郎「蓬莱山図」(岩手県立美術館)。以上の例のような、伝統的な他界イメージが流れ込む近世・近代絵画について検討を加えた。 ③仏教的浄土観と神仙思想:13世紀寧波の美術・普陀山観音信仰の美術(金沢文庫)。聖衆来迎寺「六道絵」・法華寺「阿弥陀三尊ならびに童子像」(奈良国立博物館)、白毫寺十三重塔の埋納遺品・西大寺叡尊像納入品・浄瑠璃寺吉祥天立像(三井記念美術館)。古代下野国の遺跡調査(下野国分寺跡、下野国庁跡、大神神社、大慈寺、村檜神社)。出雲市萬福寺兜跋毘沙門天像・老相神像・深沙大将像(島根県立古代出雲歴史博物館)。鎌倉の寺院・遺跡・遺物調査(杉本寺・永福寺・鎌倉歴史文化交流館)。無漏窟五百羅漢像ほか石像・弥勒窟弥勒菩薩坐像(耶馬溪羅漢寺)。 ④死後世界の表象:快慶作阿弥陀諸像、弥勒諸像(奈良国立博物館)。西大寺叡尊像・愛染明王像・文殊菩薩騎獅像、聖徳太子孝養像(三井記念美術館) 以上のように、各項目について幅広く調査をおこなうとともに、成果を論考・発表としてまとめており、研究は概ね順調に進捗していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、前年度に引き続き、(1)「天界」の意味、(2)「天界」表象の構造、(3)屏風・障子の機能、の各項目によって調査研究を進める。 (1)では、引き続き、『華厳経』に基づく「十地」思想と「蓮華蔵世界」・「天界」への往生についての思想的な検討を継続するとともに、平安時代の願文の読解をおこない、当該時代における死後世界としての「天界」観を解析する。 (2)では、「天界」表象の典拠としての『正法念処経』をあらためて読解するとともに、「天界」と「神仙世界」の習合の構造を、①絵巻物、②神祇表象と神仙思想との習合、③仏教的浄土観と神仙思想、④死後世界の表象―墳墓美術の検討、の各面から解析する。 (3)では、正倉院宝物の屏風の意義の検討を継続するとともに、以下の各カテゴリーに着目して解析をおこなう。①墳墓壁画、②画中画、③仏教建築・神祇建築の絵画、④厨子の絵画、⑤近世の宗教美術の検討。
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