年度当初の計画に基づき、(1)「天界」の意味、(2)「天界」表象の構造、(3)屏風・障子の機能、の各項目によって調査研究を進めた。 (1)では、『華厳経』に基づく「十地思想」と「蓮華蔵世界」・「天界」への往生についての思想的な検討を踏まえ、『国家珍宝帳』(正倉院文書)、空海『秘蔵宝鑰』の読解を引き続きおこなった。同時に、清凉寺釈迦如来像に対する奝然の思想に「蓮華蔵世界」が含まれていることを発見し、胎内納入品をその観点から分析し、その成果を「清凉寺釈迦如来像の胎内に見る信仰世界」(名古屋大学・ハーバード大学国際ワークショップ「像内納入品研究の地平」 金沢文庫 2018年6月23日)として発表した。 (2)では、「天界」表象の典拠としての『正法念処経』をあらためて読解するとともに、「天界」と「神仙世界」の習合の構造を、以下の各カテゴリーにおける事例調査を継続した。①絵巻物:薬師浄土観とその表象としての桑実寺の検討(桑実寺縁起絵巻)、王をめぐる画中画の検討(伴大納言絵巻・吉備入唐絵巻)。絵画における異国表象の構造の検討(玄奘三蔵絵)②神祇表象と神仙世界表象との習合(一遍聖絵)。③仏教的浄土観と神仙思想(坂東三十三所札所における補陀落山浄土の表象、神社との関係が想定される古代金銅仏―宮城船形山神社金銅菩薩立像・新潟関山神社金銅菩薩立像・長野観松院金銅菩薩半跏像)。④死後世界の表象―墳墓美術の検討(中国古代、および唐~五代における墳墓壁画)。 (3)では、正倉院宝物の屏風の意義をあらためて検討し、その成果を「奈良時代東大寺における「天」の意義と造形」(『東大寺の新研究 第三巻 東大寺の思想と文化』 185-225頁(総頁632頁のうち) 法藏館 2018年6月)として刊行した。
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