近年の古代ギリシアの彫像研究は神像を宗教物として考察する一方で、人間の肖像はもっぱらその政治的・社会的側面に注目し、結果として両者を別々の分野に分断してしまった。だが死後にこの世に力を及ぼし崇拝の対象となった者を「英雄」と定義しその造像に注目することで、神像や肖像にも共通する彫像の奉献動機が見えてくる。彼らは将軍や競技祭優勝者といった力ある死者を英雄化し肖像を捧げることで、その祟りを鎮めようとした。過去の大詩人に肖像を捧げることで、現世的な利益を得ようとした。ヘレニズム君主やローマ皇帝に肖像を捧げたのも、見返りを期待してのことだった。彼らは像主の力をコントロールするために像の奉納を行ったのだ。
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