研究課題/領域番号 |
16K02263
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
天野 知香 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (20282890)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フランス / 両大戦間 / 女性芸術家 / 20世紀 / 女性コレクター |
研究実績の概要 |
2016年8月に予定より前倒しで実施された南仏での調査旅行に於いて、《E1027》の見学を実施し、事前申し込みに基づいて建築内部を含めて詳細に実見し、当初不可能とされていた写真撮影も行うことができたのは予想以上の成果であった。これによって内部構造や導線、室内の細部の設えなど細部に至るまで確認することが可能となり、十分な分析を進めることができた。今回の調査によってえられた新規収集資料の検討・分析の結果、入校後編集過程にあったアイリーン・グレイに関する論文に加筆訂正を行い、完成させた。本論文は2017年度出版予定である。 また、今回のフランスにおける調査の結果、女性芸術家とその環境に関する基本的な認識に関して、特に作品の収集や注文に関わる女性たちのうち、アイリーン・グレイに関連して、服飾デザイナーであったジュリエット・レヴィ、マリー=ロール・ノワイユ等の多岐にわたる活動が確認された。さらに、マリー・ローランサンの肖像注文の状況を調査することで、本研究に於いて有益な知見が得られた。 本研究と関連して、女性と芸術の基本的なあり方に関連して、身体表象とジェンダーに関する論文を執筆・出版した(天野知香「美術に於ける身体表象とジェンダー 眼差しの権力とフェミニズムアート」田中正之編『現代アート10講』武蔵野美術大学出版局、2017年91-110頁)。 本年度は研究初年度にあたるため、資料収集と作品調査に力を傾注するとともに、その結果十分な研究実績を上げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度に当たる2016年度は、年間を通じて基礎研究と資料収集に力を入れると同時に、当初の予定を状況に応じてフレキシブルに修正して調査を進めたことで、順調な進捗を得ることができた。 特に2016年8月に約三週間、南仏およびパリにおいて一部予定を前倒しして調査を行い、ケース・スタディの中心的な対象の一人であるアイリーン・グレイが南仏ロックブリュンヌ=カプ=マルタンに建設した《E1027》と呼ばれる彼女の主要建築の見学を実施した。事前申し込みに基づいて建築内部を含めて詳細に実見し、当初不可能とされていた写真撮影も行うことができたのは予想以上の成果であった。またやはり南仏のカーニュ・シュル・メールでは両大戦間の女性による作品注文や芸術支援の活動に関して、スージー・ソリドールをめぐる複数の女性芸術家を含む肖像作品を調査する機会を得、またイエールではやはりグレイを含めた両大戦間の美術や装飾を支援したシャルルとマリー=ロール・ノワイユ子爵夫妻の邸宅において、夫妻の芸術支援活動に関しての資料展示を見ることができた。 またパリにおいては、女性やフェミニズムの活動に特化された図書館であるマルグリット・デュラン図書館で、マリー・ローランサンの書簡を始めとする資料調査を実施した。 さらに12月26日から1月8日にかけて再びパリとロンドンの主要美術館及び図書館において、研究対象となる女性芸術家についての作品調査、資料収集を実施した。 以上の結果、研究対象とする主要芸術家の資料は順調に収集・検討が進められることとなった。その一方で、調査の過程で芸術家への制作注文や支援活動における女性の参加について、予想よりも多岐にわたることが確認されたことでさらに調査対象を拡大、修正する必要を認識し、その実施に着手することができたことも今後の研究の進捗を推し進めるにあたって有効であった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の資料収集と調査の結果、芸術家への制作注文や支援活動と女性の関わりが、予想よりも範囲やあり方に於いて多岐にわたることが確認された。これに基づき、調査対象を拡大する必要を認識した。今後研究期間内に実施する研究対象の範囲を確定する作業を行い、新たに確定された研究対象に基づき、資料収集と調査の具体的な計画を立て、次年度以降実施する予定である。具体的には、フランスにおいてローランサンに関わる肖像画の注文主に関する調査を徹底させることに加え、英仏において両大戦間に於ける女性による作品収集や注文の実態を明らかにするための調査を展開する。またローランサンを含むフランスの芸術家の支援を行ったフランス、アメリカの女性コレクターについて収集した資料の分析を行う予定である。 課題としては、研究範囲が多岐にわたることが確認されたことによって、限られた研究期間内でまとめることのできるよう研究計画の修正が必要となった。多岐にわたる実態を捉えつつも今後の研究の発展の核となる重要なケースに絞りながら、研究期間内にまとめられるよう、計画を修正しつつ緩みなく実施する予定である。加えて、可能なら資料分析の成果の一部を2017年度中に論文として発表することも視野に入れる予定である。
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