研究課題/領域番号 |
16K02265
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
根立 研介 京都大学, 文学研究科, 教授 (10303794)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肖像彫刻 / 肖像画 / 肖似性 / 写実性 / 理想化 |
研究実績の概要 |
29年度は、三年計画の二年次に当たり、昨年度に引き続き、資料収集の作業を進めていった。資料収集作業の主要な実績としては、海外調査では、米国ニューヨーク市・メトロポリタン美術館での調査が特筆される。この調査は、当初予定しなかったものであるが、当館の日本美術部門のCarpenter氏と知り合う機会が出来、特別に作品調査が許された機会に実現したもので、木造僧形像などの実査を行うことが出来た。また、欧州調査では、ベルギー・ブリュッセル市の王立歴史美術博物館・王立古典美術館、同ヘント市バーフ教会、スイスのチューリッヒ市のコーラ・オークションハウス、リートベルグ美術館、市立美術館、フランス・パリ市ギメ東洋美術館などで肖像関係の資料収集を行った。これらの調査は、日本・東洋美術の肖像関係遺品の資料収集が主なものであるが、肖像の機能などの問題を考える上でも有益な情報を得ることが出来た。 また、国内調査では、高知県立歴史民俗資料館の展覧会における資料集が有益であった。この展覧会は、主に京都の禅宗関係寺院の肖像画(頂相)の作品が数多く展示されており、頂相画に関する有益の資料収集を行うことが出来た。さらに、京都国立博物館の阿刀家伝来の弘法大師像の資料収集や、東京国立博物館の展覧会に出品された興福寺無著・世親象、東大寺重源像、奈良国立博物館の展覧会に出品された奈良・来迎寺の伝善導大師像、兵庫・浄土寺重源像などの資料収集も行った。このほか、京都市等持院の歴代室町幕府将軍像や東福寺龍吟庵大明国師像などについても、資料収集を行った。 国内の肖像彫刻については、本昨年度からの科学研究費の調査や、これまで研究代表者が実施した調査により、かなりの量の資料収集ができ、特に鎌倉時代の禅宗の頂相彫刻については主要な作品の情報の収集に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の直接的な対象である鎌倉時代の肖像彫刻については、従前から研究を進めていることもあり、かなりの資料や情報の蓄積があった。これに加えて昨年度からの本科研調査によってさらに資料収集が進展し、またかつて調査したものの確認調査もある程度出来たため、資料の蓄積は順調に進展している。特に、29年度は、高知県立歴史民俗資料館での禅宗の展覧会で鎌倉肖像彫刻の資料を数多く収集できた意義は大きかった。また、29年度は、鎌倉時代の肖像彫刻の優品を数多く製作した慶派に関わる展覧会が、奈良国立博物館と東京国立感で開催され、鎌倉肖像彫刻の優品の確認作業を行うことが出来たことは意義があった。 ただ、課題であった鎌倉地域の肖像関連作品の資料収集は、やはり多少遅れ気味のところがある。しかしながら、これに関してはこの地域の関連遺品を数多く調査されている東京国立博物館の浅見龍介氏から情報提供を受けるとともに、氏の保管している画像資料の複製を行うことが出来たため、資料収集にある程度目処が立ってきた。 また、海外調査については、前述したように、米国メトロポリタン美術館での作品の実査を行うことが出来た意味は大きい。なお、海外調査については、肖像研究の方法論の再考に大きな意味があるが、今年度もフランドルの肖像画の資料収集を行うことが出来たのは成果と言えるが、まだ情報の不足がある。今後も、西洋各国の優れた肖像作品を収集している米国の大規模美術館などを巡り、資料収集を行う必要性が感ぜられた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究の最終年度であるので、まず第一に実施したいのは、資料収集の補足である。資料集を行う候補場所としては、国外では、従前から調査を打診していた米国・フリア美術館及びネルソン・アトキンズ美術館から調査実施の許可が得られそうなので、この二館で日本及び中国の肖像に関す資料収集を実施したい。また、国内の資料収集は京都を中心に資料収集を実施し、東福寺や南禅寺まど京都五山に関連する、鎌倉時代から南北朝時代頃の禅宗肖像彫刻、いわゆる頂相彫刻などの資料収集を行うことにしたい。これらの京都五山寺院の鎌倉時代や南北朝時代の肖像彫刻については、本研究を開始する以前に概ね調査を終えておいるが、調査から時間がかなり経っており、主要遺品の確認調査が必要となところがある。 以上の補足の資料収集終了の目処が立った時点で、研究成果の公表を試みたい。現在考えているのは、二つの試みで、一つは研究協力者や研究代表者が指導する大学院生などを招集し、肖像に関する研究会を実施し、研究成果を討議し、研究成果の集約を図りたい。もう一つの試みは、三カ年に亘る本科研の研究成果を踏まえ、予算の関係で簡単なものになるかもしれないが、研究代表者及び本研究に興味を持つ研究者(文化庁美術学芸課筒井忠仁文化財調査官、大阪大谷大学苫名悠講師にはすでに執筆を依頼済み)から肖像に関わる研究報告を提出してもらい、肖像に関する研究報告書を刊行を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当該年度に13,624円の残額が出たが、これは海外調査の旅費が予測したものに比して、若干安価にすんだのが一番の原因である。年度末に無理に残額を使用するより、次年度の旅費予算の増加を考えた。
(使用計画)次年度でアメリカが州国のフリア美術館、ネルソン・アトキンス美術館などの調査を考えており、海外調査の旅費に残額を充てることを考えている。これは、フリア美術館、ネルソン・アトキンス美術館との交渉の結果、二館が所蔵している関連作品の調査が許され、調査が実施出来るようになったためである。旅費が不足気味であったので、残額をその補充に充てたい。
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