研究課題/領域番号 |
16K02269
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研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
水野 さや 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (10384695)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遼 / 金 / 高麗 / 仏教造像 / 仏塔 |
研究実績の概要 |
本年度に行った調査・研究内容は以下の通りである。 第一に、韓国国内における遼・金の仏教美術に関する見解の収集である。従来、高麗の仏教美術に関しては、日本国内の研究においても同様に、両宋との積極的な関連性の指摘に終始しており、仏塔や仏像に見られる宋以外の要素については、元との関わりにおいて取り入れられたと理解されてきた。しかし、その根拠の多くを「宋風」という漠然としたイメージに依るところもあり、遼・金の作例に引き継がれた宋代要素との区分が為されていない。また、元において消化・吸収された金的要素との区別もない。このような現状を客観的に把握し、日・韓の従来の研究における問題点を明確化する作業を、今後も継続して行っていく。 第二に、アメリカの博物館・美術館に所蔵される遼・金の仏教造像の確認である。遼・金の仏教造像の「幅」を実証的にとらえ直すため、すでに調査に及んだ中国、台湾、ヨーロッパの博物館・美術館に所蔵される造像をもとに、今回確認することができたアメリカ所在の作例データを補完することができた。その結果、遼から金への造像の移行には、遼塔から金塔への展開に比べ、図像的特徴、体駆表現における面的・量的把握、相好などの点において、ある種の「段差」を看取することができそうである。すなわち、遼代仏教造像を構成する要素(情報源)が、同時代の宋からの移植というよりはむしろ、唐および渤海の継承、同時代の高麗からのフィードバックなど、重層的に成り立っているためである。さらなる調査作例の増加により、より実証的な作例考察に及ぶことができるように継続して努めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、中国東北部(吉林省・遼寧省・黒龍江省)における遼・金代の仏教建造物の実地調査、博物館所蔵の遼・金の仏教造像の実地調査を計画していた。しかしながら、ここに関連する地域の情勢がやや不安定なこともあり、調査許可の取得がやや困難になりつつある。そのため、韓国において刊行されている遼塔・金塔および高麗仏塔に関する資料収集と、アメリカ国内の美術館・博物館(その一部)の作品調査に、本年度の調査研究内容を切り替えざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、韓国国内における遼・金の仏教美術に関する文献調査を継続して行う。それと平行し、遼・金の仏教造像の「幅」を実証的にとらえ直すため、すでに調査に及んだ中国、台湾およびヨーロッパの博物館・美術館に所蔵される造像をもとに、日本、韓国、アメリカ所在の作例のデータを補完させ、一層充実したものとする。本年度のアメリカ国内調査は、ごく限られた地域(ニューヨーク、ワシントンD.C.、ボストン)にとどまったため、次年度以降、他地域の美術館・博物館(カンザスシティ-、シカゴ、サンフランシスコなど)の収蔵品を事前に確認した上で、実地調査に向けての申請を行う。また、中国東北部への実地調査は、情勢を考慮しながら渡航時期を判断し、調査計画を再度立て直す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、当初計画されていた中国東北部での実地調査を実施することができなかった。そのため、その調査において必要と見込まれていた現地研究者への謝金を支払うことがなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
韓国の大学・研究所・図書館におけるさらなる文献収集、高麗の仏塔・仏教造像の実地調査を次年度において計画している。韓国において円滑に調査研究を遂行するにあたり、現地研究者への研究協力謝金を支出する予定である。次年度使用額は、その一部として支払にあてる。
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