研究課題/領域番号 |
16K02270
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
亀井 若菜 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (30276050)
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研究分担者 |
安達 敬子 京都府立大学, 文学部, 教授 (90194555)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 伊勢物語 / 伊勢物語絵 / 物語絵 |
研究実績の概要 |
本研究は、美術史と国文学の研究者が協同し、鎌倉・室町・桃山~近世初期の各時代の伊勢物語絵の表現を、作品毎に、『伊勢物語』の本文や同時代の注釈書や御伽草紙等の内容と比較検討し、その時代の享受者が追及した『伊勢物語』世界がいかなるものであったのかを探求することを目的としている。研究の方法としては、①伊勢物語絵の図像を可能な限りデータ化し、章段ごとに比較検討すること、②様々な伊勢物語絵及び関連する作品の調査を行うこと、③『伊勢物語』本文や注釈書等の読解を行い、①②を通して抽出された図像の特徴とあわせ考察することを行う。そして①~③を総合して検討し、各時代の伊勢物語絵がいかなる『伊勢物語』理解と結びつき、またどのように『伊勢物語』世界をイメージしているのかを探求することを目指す。 平成28年度は②としては、アメリカの美術館で調査を行うことができた。伊勢物語絵としては、ハーヴァード大学美術館で「伊勢物語絵巻A本」、メトロポリタン美術館で「伊勢物語図屏風」と「伊勢物語図色紙 宇津山」を、物語絵の参考作品としてフリア美術館で「源氏物語白描画帖」、「源氏物語図屏風(帚木・若菜上)」、メトロポリタン美術館で「源氏物語図屏風(関屋・行幸・浮舟)」等の調査を行った。 ①と③に関しては、各年度、章段を分けて取り組む計画としている。平成28年度は、初段「春日の里」、2段「西の京の女」、3段「ひじき藻」、4段「西の対」、5段「関守」、6段「芥川」、9段「東下り」について、『伊勢物語』本文、及び注釈書の『和歌知顕集』、『冷泉家流伊勢物語抄』、『伊勢物語愚見抄』、『伊勢物語肖聞抄』、『伊勢物語闕疑抄』、『伊勢物語拾穂抄』を読み、様々な伊勢物語絵の当該章段の絵と比較した。その結果、各伊勢物語絵の特徴が抽出でき、注釈書との対応関係についても考えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していたアメリカでの調査を実施することができ、予定していた調査作品も概ね見ることができた。この調査における最大の収穫は、メトロポリタン美術館において「伊勢物語図屏風」(以下メトロポリタン本とする)を調査できたことであった。本図は、六曲一双の紙本着色の屏風で、これまでにもわずかに図録等で触れられてはいるが、本格的な紹介はいまだなされていないものである。本研究の計画段階においても、特に注目していなかった。しかしメトロポリタン美術館において実見し、大変優れた表現のなされた伊勢物語絵であることが確認できた。 本屏風は近世初期の作とされるものの、その制作事情がわかるような文字資料はなく、絵師や制作に関わった者の名や制作時期などはわかっていない。しかし本図には他の伊勢物語絵には見いだせない特徴が様々にあり、それらにより、本図の制作者がこの絵に込めた意味や意図も推測できるのではないかと思われるものであった。本屏風は、伊勢物語絵と享受者の伊勢物語イメージを探求する本研究を遂行する上で、大変重要な意味を持つものと位置づけられる。 ①と③については、各章段の絵の図像比較、および本文と注釈書の検討を行い、たとえば以下のような成果が得られた。スペンサーコレクション本「伊勢物語絵巻」の「春日の里」には、春日の姉妹の部屋に化粧道具が置いてある。これは他本にはない表現である。それは、本文中の「なまめいたる女はらから」の「なまめく」の解釈として、「まなめくは、けしやうする心なり。なまなましきふるまひする、心にかなへり」とする『愚見抄』の解釈と関係するのではないだろうか。このように、各伊勢物語絵の図像の特色を抽出する作業と、各注釈書の解釈を関連づけて考える作業を行い、いくつかの成果が出ているところである。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」の項で述べたように、メトロポリタン本の調査を踏まえ、本研究の計画を少し変更したい。計画では、異本伊勢物語絵巻、小野家本、中尾家本を中心に扱い、それぞれの絵の表現からそれぞれの作品の『伊勢物語』イメージを探求することとしていたが、メトロポリタン本も研究の中心的作品に加えることとしたい。 メトロポリタン本には、『伊勢物語』全125段のうちの14章段から17場面が選ばれ描かれている。各場面は金雲を介しながらゆるやかにつながり、その金雲上に各場面で詠まれる和歌が散らし書きされている。本図の特徴としては他にも、各場面を独立させて描くのではなく、場面どうしが土坡や植物、水景、建物などを介してゆるやかにつながるように描かれていること、いくつかの場面の登場人物が他の伊勢物語絵にはないような姿勢や表情で描かれていること、複数の人物が登場する場面で人物相互の関係性がわかるような表情を各人が見せていること、などが挙げられる。これらには、他の伊勢物語図屏風と共通する特徴もあるが、本図独自のものもある。そこで、他の伊勢物語図屏風(出光美術館蔵「伊勢物語図屏風」、斎宮歴史博物館蔵「伊勢物語図屏風」、サントリー美術館本「伊勢物語色紙貼交屏風」等)についても、調査を行い検討を進めたい。 また、当初の予定通り、久保惣記念美術館本、異本伊勢物語絵巻、小野家本等についても調査を進めることとしたい。 ①と③についても、引き続き作業および検討を行っていく。その際、メトロポリタン本に描かれる章段から作業・検討を進めていくこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者である亀井若菜が平成28年8月より12月末まで在外研修でアメリカに滞在したこと、また帰国後体調を崩してしまったこと(1月~3月)により、ほぼ半年の間日本国内で調査・見学を行うことや図書・物品の購入を行うことが滞ってしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、国内の調査(東京のサントリー美術館、出光美術館、東京国立博物館、国文学研究資料館、大阪の久保惣記念美術館、三重の斎宮歴史博物館等)および国外の調査(アイルランドのチェスタービーティーライブラリー、イギリスの大英図書館等)を進め、関連図書も多く購入する予定である。
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