研究課題/領域番号 |
16K02272
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
深谷 訓子 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (30433379)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カラヴァッジョ / カラヴァッジスム / 宗教画 / 模倣 / マンフレーディ |
研究実績の概要 |
本研究が重要な調査対象のひとりとするファン・バビューレンは、数多くいるカラヴァッジストのなかでも、とりわけイタリア人画家バルトロメオ・マンフレーディから大きな影響を受けている。本年度の予定としては、当初はオランダ人画家との比較として、フランス人、スペイン人画家によるローマでの受注制作を検討するつもりでその作業にも着手していたが、国立西洋美術館が2015年に購入したマンフレーディの《キリストの捕縛》が、カラヴァッジョとファン・バビューレンをつなぐケーススタディとして非常に興味深い実例を提供してくれることから、この三者による《キリストの捕縛》の作品研究を行った。各作家の画面構成、あるいは物語の叙述法を子細に検討し、模倣という手段を如何に自作の着想に活かしているか、オリジナル(カラヴァッジョ)を透かし見せつつ独自性を発揮するために如何なる手段を講じているかということを論文にした。 論文の主眼は画面構成の分析にあるが、準備作業として、近年議論の対象にもなっている「マンフレディアーナ・メトドゥス(マンフレーディの手法)」という言葉について、その範囲や解釈状況を整理するということも行った。先述のように特にファン・バビューレンにとってマンフレーディの関与は大きく、全般的なマンフレーディの影響の射程についても認識を明確にしておく必要があるためである。また、この北方画家がマンフレーディ作品を実見した機会を絞り込むため来歴について検討する過程で、バビューレン、デ・ハーン、ニコラ・レニエの同居関係についても改めてその重要性が注目された。またマンチーニが明らかにカラヴァッジョの代替としてマンフレーディに作品を注文している例なども浮上してきた。これらは論文に取り入れた一例に過ぎないが、同様にカラヴァッジストに作品制作を依頼したパトロンとそれをめぐる状況についても情報収集を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「マンフレーディの手法」という語の出所であったヨアヒム・フォン・ザンドラルトによるヘラルト・セーヘルス(1591―1651)、ヴァランタン・ド・ブーローニュ(1591―1632)、ニコラ・レニエ(ca. 1588―1667)、そしてマンフレーディの伝記を再確認し、ザンドラルトの意図していたこの語の意味を明確化したうえで、近年の研究における使用法やその見直しについてまとめた。この作業は、ユトレヒト・カラヴァッジストたちにとって重要な先駆者と考えられるマンフレーディの影響の実態をより正確に捉えるための概念整理として行った。 本年度は、同主題作品に着目した作品研究を行うことにより、カラヴァッジョを源泉のひとつとした、マンフレーディ、ファン・バビューレン、セーヘルスらの作品上の影響関係を一定明らかにすることができた。さらに、作品の来歴ならびに従来から知られていた同居・近居等の住環境といった情報を付加することで、極めて緊密な影響関係を具体的に跡付けることができた。また、そうした影響関係が実際には如何なる画面構成・物語叙述上の工夫となって表れるのかということを、作品分析を通じて検討した。 研究成果のとりまとめ(発表や論文としての公開)には至っていない部分がなお多く残るものの、近年蓄積された先行研究から、重要な作家やパトロンらをめぐる情報収集を行い、考察を進める作業は順調に進展している。一方で、オランダでの資料収集は行ったものの、作品実見のためのイタリア訪問は予定に組み込むことができず、翌年度への持ち越しとした。
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今後の研究の推進方策 |
研究前半の2年間を経て、調査や情報収集は進展してきたが、それらを整理して考察し、論文等の成果につなげるという作業については少し速度を上げて取り組む必要がある。これまでケーススタディとして作品研究に取り組み、実証の難しい部分で止まってしまう傾向があったが、ベースとなる全体像部分のための情報収集は一定の進展を見ているため、2018年度はそれを活かすために、一度当初の計画であった1580-1630年の全体状況についてこれまでの調査をもとに執筆を進めたほうがよいと判断している。 執筆中の論文のために、イタリアの教会で追加で調査すべき作例と墓碑がある。そのため2018年度中にイタリアでの調査を行う。また2018年12月からは、ユトレヒトにおいて「ユトレヒト、カラヴァッジョ、そしてヨーロッパ」と題されたカラヴァッジスムの展覧会が開催されるため、これに併せてオランダの調査予定を組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況に照らして、2018年度に複数回の在外調査を入れる必要性があることが明らかになってきたため、また急ぎで入手しておきたい図書の購入等が少なかったため。さほど額が大きくないため、2018年度の調査旅費もしくは図書購入費として使用する。
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