研究課題/領域番号 |
16K02274
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
野口 祐子 京都府立大学, 文学部, 教授 (80128769)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 輸出工芸 / ジャポニスム / イギリス / 陶磁器 / V&A博物館 |
研究実績の概要 |
3年間の調査研究の1年目として、文献調査では、京都府立総合資料館の協力を得て、所蔵資料から明治時代の京都における輸出工芸について考察した。京都の陶磁器業界の輸出工芸品制作の状況、当時の博物学的背景に基づく日本の陶磁器の歴史的著述の出版、欧米の工芸品コレクターによる著作や日本旅行記を分析することによって、日本側の輸出工芸制作と販売の意図、欧米における受容の様態と、日本陶磁器に対する理解度について明らかになったことを研究報告にまとめた(「ヴィクトリア朝後期イギリスの日本陶磁器ブームにおけるSatsuma受容の様態--ジェームズ・ロード・ボウズの著作を中心に」『京都府立大学学術報告 人文』第68号、73-88、平成28年12月)。 また、欧米との影響関係(工芸技法・意匠・美術観・装飾観・嗜好・流行・日本イメージ・経済状況等)を把握するために、京都での文献調査とともに同時代のイギリスの状況も調査した。平成29年3月24日~30日にかけてイギリスで行った在外研究では主に、大英図書館での文献調査、ボーンマスのラッセル=コーツ博物館・美術館でのラッセル=コーツ夫妻による日本の工芸品コレクションの実見調査、およびヴィクトリア&アルバート博物館収蔵館での収蔵品調査を行った。特に1876年フィラデルフィア万国博覧会に日本から展示され、ヴィクトリア&アルバート博物館の前身であるケンジントン博物館が買い取った陶磁器コレクションを実見できたことは大きな収穫であった。個々の作品に関するストーリーを読み解くためのデータ等についても教示を得た。また、並河靖之七宝記念館の学芸員である武藤氏の協力を得て、明治の京都から世界に名を馳せた七宝家の並河靖之に関する共同研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、文献調査と実見調査の両面から研究課題の解明を進めた。 まず文献調査によって、明治時代の京都における輸出工芸の制作と、イギリスにおけるジャポニスムの流行、美術・デザインの潮流と変化の機運との相互影響の一端を明らかにし、その調査結果を研究報告「ヴィクトリア朝後期イギリスの日本陶磁器ブームにおけるSatsuma受容の様態--ジェームズ・ロード・ボウズの著作を中心に」にまとめ発表した(『京都府立大学学術報告 人文』第68号、2016年12月)。 実見調査については、平成28年度の在外研究において、ロンドンの大英図書館での文献調査と並行して、イギリスにおけるジャポニスム流行時に形成されたコレクションを実見した。その際、ヴィクトリア&アルバート博物館作品群の由来等について、同館学芸員で研究協力者のアーヴィン氏から調査協力を得た。同博物館の収蔵館における実見調査では、今日の日本では見る機会の少ない輸出工芸品も実見したので、当時の日本旅行記におけるイギリス人の記述を裏付けることができた。また、ボーンマスにあるラッセル=コーツ博物館・美術館は、ラッセル=コーツ夫妻の趣味を反映したその建築にもコレクションにもジャポニスムの影響が色濃く現れており、明治時代の日本を訪れたイギリス人旅行者がどのような日本イメージを抱いていたかがよくわかった。これらの知見は今後の研究に生かす予定である。 さらに、研究協力者のアーヴィン氏と武藤氏の協力を得て、京都の七宝工芸のイギリスにおける受容についても研究を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度も文献調査と実見調査から課題解明を行う。ヴィクトリア&アルバート博物館に所蔵されている明治の輸出工芸品については、個々の作品が収蔵されるに至るまでのストーリーを、博物館所蔵の文献にあたって明らかにする作業に注力する予定である。さらに平成28年度に開始したアーヴィン氏と武藤氏との共同研究において、七宝工芸のイギリスにおける受容についても研究を深めることにしている。それらの調査のために、平成29年度もイギリスにおいて在外研究を行い、大英図書館、ヴィクトリア&アルバート博物館、大英博物館、アシュモリアン博物館等で調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の執行予定より物品費の執行額が少ない理由は主に、高額書籍の購入を平成29年度にすることとしたためである。物品費を平成28年度は670,000円、平成29年度は470,000円計上していたが、当初予定していた書籍の購入については、研究対象の焦点化をしてから検討することとした。その結果、購入予定の洋書やリプリント版の全集など高額書籍の一部には、平成28年度は購入を見合わせたが、平成29年度に購入を予定しているものがある。 また、平成28年度の旅費には420,000円を計上していたが、執行額は389,710円であった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度末までに研究対象の焦点化を進めることができたので、次年度使用額374,150円は主に平成29年度に注力する研究対象の洋書やリプリント版の全集などの高額書籍の購入に充てる予定である。
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