研究課題/領域番号 |
16K02287
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
川上 比奈子 摂南大学, 理工学部, 教授 (90535121)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アイリーン・グレイ / 菅原精造 / 稲垣吉蔵 / 木内克 / 碓田勝己 / 高村光雲 / 川之辺一朝 / 土佐光起 |
研究実績の概要 |
20世紀初頭、アール・デコ期の芸術家として有名なアイリーン・グレイに初めて日本漆芸を教え、作品を共に創った菅原精造とその周辺の渡仏美術家たちがグレイとの協働によってヨーロッパ美術に与えた影響を探るため、これまで収集した資料を解読・分析するとともに関係者にインタビューを行った。特には、ロダンの助手としてフランス彫刻を支えた稲垣吉蔵に関する著作、日本に帰国して活躍した画家碓田勝己の画集、彫刻家木内克に関する文献を読み解き、また、碓田の遺族から重要な証言を得ることができた。 その結果、東京美術学校出身の美術家たちが、彫刻家高村光雲および漆芸家・川之辺一朝の教えを受けていたことが判明し、江戸時代から受け継がれた日本の彫刻、絵画、漆芸の理念と技法が日本美術家を通してグレイに伝わった可能性があることを一部、論文化して出版した。また、菅原に親交のある日本美術家たちがグレイの漆芸を手伝うとともに日本美術の理念、特には土佐光起が『本朝画法大伝』に書き残した「白紙ももやうの内なれば心にてふさぐべし」とする日本画の理念を伝えたために、グレイの作風が具象的なものから幾何学的なものに変化していった可能性を招待講演会において発表することができた。 菅原、稲垣、木内、碓田とグレイの作品との比較研究を行うために、年間を通じてグレイの屏風・家具・建築の模型を作成し影響関係を探求した。特には、グレイの幾何学的なモチーフを採用した屏風作品と建築作品・E.1027に共通する日本的な要素が、菅原と稲垣に高村から伝えられた日本美術の影響と当時のヨーロッパの美術思潮、キュビズムや構成主義との融合によって創発された可能性を見出すに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アイリーン・グレイに初めて日本漆芸を教え、作品を共に創った菅原精造とその周辺の渡仏美術家たちがグレイとの協働によってヨーロッパ美術に与えた影響を探るため、これまで収集した資料を解読・分析した結果、重要な史実 がいくつも判明した。上記、調査結果をもとに新たなデータシートを作成し、その分析をもとに、さらなる調査をはじめている。 また、これまでの論文を英訳、仏訳するとともに、関係機関に協力を依頼しており、初年度の計画は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の調査・分析で得た知見をもとに論文を執筆する。また、論文を英語またはフランス語に翻訳・校閲依頼して関係機関に送付し、さらなる調査環境を整える。グレイの作品が所蔵されているフランス・パリの装飾芸術美術館、イギリス・ロンドンのヴ ィクトリア・アンド・アルバート美術館において再調査する。また、アイルランド・ダブリンの国立博物館において、日本から送られた漆芸の材料や道具、手紙などを再調査する。さらにグレイがデザインした南仏、ロクブリュヌとマントン にある2つの住宅を再調査する。 国内においては、菅原が教えを受けた東京美術学校の漆芸科教授、高村光雲、川之辺一朝の作品を東京芸術大学付属美術館などにおいて調査し、日本の美術家を通してグレイに伝えられた内容を意匠的に比較分析する。また、当時の教育カリキュラムを具体的に調査し、グレイの技法の源を探る。さらに菅原の元師匠である森川の出身地・新潟県、菅原の出身地・山形県、碓田の出身地・愛媛県、木内の遺族がいる東京に赴き、情報を収集する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査先からの郵送やメール、インターネット公開のデータによって貴重な史料が多数得られ、その整理および分析を行うことに専念した結果、模型化、論文化を当初予定より早く進めることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度の支出予定の各費目を、29年度に持ち越し使用する。
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