本年度は、最終年度として、研究を総括するため、研究発表と外部研究者と共同研究会を開催して、研究の成果と問題点を指摘していただくこととした。 まずは韓国国外文化財財団主催の第1回文化財国際フォーラムへ出席し、「関野貞の文化財調査にみる朝鮮時代絵画への関心について 」と題して、関野貞の朝鮮時代絵画についての関心や理解について考察を発表した。また、韓国より近代美術市場史研究の金相燁氏、植民地朝鮮における美術の意義を考察している権幸佳氏を招いて、共同研究会を開催した。二人とも研究者の課題に合わせて、関野貞に関係した内容を発表、指摘していただいた。研究会の参加者も含めた意見の交換から、近代日本における朝鮮時代絵画の研究は、ほぼ関野貞一人を中心に行われたと言って良いが、その絵画の理解や位置づけは日本の近代美術観に大いに影響されている事、朝鮮時代の士大夫の書画観をほぼ抹殺している事など、本来の朝鮮時代絵画の成立や意味から大きく離れてしまったことを認識した。 植民地朝鮮における絵画は、ほかの文化財同様、李王家博物館、朝鮮総督府博物館での収集、展示によって、美術としての地位を確立した。そして、そのことが民間も含めた朝鮮時代絵画の収集熱を高め、日本人株主による京城美術倶楽部のみならず、呉鳳彬の朝鮮美術館の開設を促したと言えるが、日本人による博物館施設や朝鮮名画展覧会などが、絵画のみを並べたのに対して、民間の収集が書を含めた書画の収集を行ったのは、美術への理解が実際は異なっていた、あるいは朝鮮時代の士大夫文化における書画の文化が民間では継続していたとも考えられる。日本による近代的美術観は公的な場では示され、それをもとに韓国の絵画史が編まれ始めたが、その理解は本来の書画の意義を失っていたといえよう。本研究により近代における日本の朝鮮時代絵画の活用と理解の様相を探求することができた。
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