本年度は、4 年計画の最終年度であり、研究の総括と調査成果のデジタルデータ化を行った。1)徳川将軍家の御物形成においては、家臣からの名物・名品の献上が重要な側面を担っていることに鑑み、『徳川実紀』などから「献上」「下賜」にかかわる記述を抄出し、テキストデータ化を行った。 2)徳川将軍家が「御絵師」すなわち御用絵師の制度を確立した元禄年間頃の画壇の状況を知るてがかりとなる文献や資料について調査をすすめた。なかでも宮廷絵所であった土佐光起が、土佐家の画法の秘伝を記した『本朝画法大伝』(東京芸術大学所蔵)について、その意味や意義を考察した。 3)狩野探幽・常信の鑑定の事例について調査した。とくに東京国立博物館所蔵の「探幽縮図」 については、詳細に注記の内容を吟味し、探幽に鑑定を依頼した幕府関連の人物を一覧化した。 また、本研究をあしがかりとして今後「常信縮図」の総合的な調査研究をすすめるための基礎研究をすすめた。 4)寛永寺の根本中堂の障壁画に関する常信の書状を読解し、御用絵師の仕事の一端をしめす資料として、島津家絵師・津曲朴栄などに関する資料とともに考察した。 以上によって、徳川将軍家の柳営御物が形成されていく様相と変遷をたどり、大火後の柳営御物の輪郭を明らかにすることができた。また、鑑定控え「探幽縮図」「常信縮図」を判読することで、鑑定者としての御用絵師の役割を確認することができた。そして、柳営御物の構築における「献上と下賜」という贈与文化において、その根幹となった互酬性を担保した「鑑定」による権威付けについて、その実状を明らかにする事例をしめすことができた。
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