研究課題/領域番号 |
16K02294
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研究機関 | 公益財団法人岡田茂吉美術文化財団(学芸部) |
研究代表者 |
内田 篤呉 公益財団法人岡田茂吉美術文化財団(学芸部), 学芸部, 学芸部長 (00426438)
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研究分担者 |
岡 佳子 大手前大学, 公私立大学の部局等, 教授 (50278769)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 野々村仁清 / 出土遺物 / 化学分析 |
研究実績の概要 |
初年度である平成28年度は、研究実施計画に基づき、①京焼の出土陶片の調査、②MOA美術館が所蔵する仁清陶器その他の化学分析調査を軸に実施した。 京焼の出土陶片の調査は、5月から6月にかけて東京大学埋蔵文化財センターに収蔵されている加賀藩江戸屋敷から出土した17世紀の仁清陶陶片及び京焼の陶片数十点を調査した。8月は京都市埋蔵文化センターに収蔵されている京都御苑(公家町遺跡)出土の陶片群を調査した。さらに11月には、参考資料として京都大学埋蔵文化財研究センターにおいて、聖護院乾山窯跡出土陶片及び窯道具を調査した。これらの陶片は消費地遺跡として年代が確実な遺構から出土したもので、「仁清」印がある陶片に加え、同時代の在印京焼陶片が多数あり、野々村仁清と同時代のやきものの特色をあらためて明確にする意味で本調査は重要且つ有意義であった。 化学分析調査は、東京理科大学理学部中井泉教授を迎え、7月9日、11月14日、3月30日の3回実施した。第1回は重要文化財「色絵金銀菱文重茶碗」、第2回は、「色絵熨斗香合」(仁清)、「色絵赤玉龍文鉢」(伊万里)、「色絵桜楓文鉢」(仁阿弥道八)、第3回は、国宝「色絵藤花文茶壺」(仁清)を調査対象として、デジタル顕微鏡による観察及び蛍光X線による分析を実施した。デジタル顕微鏡による観察では、主として仁清陶における金銀の装飾技法について、焼き付けか或いは漆等による接着かを確認し、蛍光X線分析においては、仁清黒と呼ばれる仁清特有の黒釉をはじめ、白釉、緑釉、赤絵の組成を明確にできた。調査を担当した中井教授は、古代ガラスやペルシャ陶器の組成分析で優れた業績を残した第一人者であり、今回この独創的な調査方法を取り入れることができたことは仁清陶の研究史上非常に有意義であると認識している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画で予定していたボストン美術館における在外京焼の実見調査がスケジュール調整の都合によって今年度実施できなかったが、これらの作品と同質である消費地出土の仁清陶及び京焼の調査が概ね計画通り進展しつつあることと、当初2回予定していた化学分析調査が3回実施できたことに照らして概ね順調に進展していると認識している。尚、本年度実施できなかったボストン美術館での調査は、平成29年度2月に予定している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、初年度に3回実施した化学分析調査の結果をもとに研究代表者、研究分担者、連携研究者による研究会を開催する。研究会では仁清陶の釉薬の調合法を記載した『陶工必用』の内容を整理し、問題点を抽出した上で製陶技術の確認を行い、今後さらに調査を要する事柄について検討する。 並行して初年度に調査した出土京焼によって明確にした17世紀京焼の特色に基づき、国内の美術館・博物館等に収蔵される仁清の伝世品の実見調査を進めたい。ただし、出土京焼の調査は、未調査の尾張藩江戸屋敷跡、汐留遺跡、大阪城城下町遺跡等を含め、可能な限り継続させる。 国内出土遺物と同様の伝世品として欧米に収蔵されている京焼の調査は、8月に大英博物館において予備的調査を実施する他、2月に初年度計画にあったボストン美術館での調査を実施予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に実施する予定であったボストン美術館での京焼実見調査をスケジュール調整の都合により、実施できなかったことが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
ボストン美術館での調査は次年度の2月に実施予定であり、初年度使用しなかった分をそのまま使用する。
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