前年度までに3回実施した化学分析調査で特定できなかった「色絵金銀菱文重茶碗」の黒釉における色素を特定するため、6月24日、ラマン分光器(レーザー光線の跳ね返りによる物質名の特定)、ならびに粉末X線回析計(結晶性の物質の構造を分析して物質名を特定する。)を用いて調査を試みた。残念ながら黒釉における色素は解明できなかったが、電子顕微鏡による再観察の結果、黒釉に無数の赤い点が見えることが新たに確認できた。また、本調査で、赤絵について、元素がFeであることに加え、物質名はベンガラであることが特定できた。粉末X線回析計では、銀菱は銀箔であることが実証でき、白釉における石英の存在が確認できた。 さらに前年度からの課題であった金や銀の貼り付け方法の検討会を3月に実施できた。陶芸家の永楽善五郎氏、漆芸家の室瀬和美氏、陶磁史研究者の西田宏子氏を招聘し、「色絵金銀菱文重茶碗」を観察しながら意見交換を行ったところ、当初、金箔と推定していた点について、金泥による焼成の可能性を指摘する意見もあり、科研費による助成終了後も調査を継続する必要性が生じている。 海外における仁清印を伴う伝世作品の調査は、1月に英国のビクトリア&アルバート美術館、メイドストーン博物館において実施し、約20点を実見調査することができた。 初年度に調査した出土京焼によって明確にした17世紀京焼の特色に基づき、国内の美術館・博物館に収蔵される仁清の伝世品の実見調査を行った。東京国立博物館、京都国立博物館、福岡市美術館、根津美術館、野村美術館などで約30点を調査し、金、銀、色絵の技法等について確認することができた。
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