最終年度にあたる平成30年度は、前年度までの二年間においてアメリカで実施した二つの研究調査を総括する作業を主として行なった。これらの歴史文献調査とは、一つは商業空間におけるファッションの登場の歴史であり、もう一つは教育研究機関におけるファッションの視覚化の歴史である。前者については、ニューヨークを中心とする商店や百貨店において「ファッション」がいかにして飾られるものとなったのかを、ショーウィンドウとマネキンの発展から明らかにした。後者については、博物館や美術館などのミュージアム、特にニューヨークのアメリカ自然史博物館・ブルックリン美術館・メトロポリタン美術館の三つのミュージアムにおいて「ファッション」がいかに展示され「作品」としての価値を獲得したのかを明らかにした。 これらの調査結果を踏まえ、19世紀においては女性誌やファッション誌のなかで描かれていた理想的女性像が、20世紀前半においては百貨店やミュージアムなどの公共施設において再現されていく歴史的様相を明らかにした。そして、雑誌紙面から展示空間への二次元から三次元へのメディアの移行にもかかわらず、ファッションとともに理想的女性像が再生産される歴史を明らかにし、近代アメリカにおける「ファッションと女性」の分かち難い連関について考察した。 以上の研究成果を書き下ろしの二本の研究論文としてまとめ、さらにこれまでの科研の研究課題の成果とともに、『まなざしの装置ーファッションと近代アメリカ』と題した学術書として青土社より出版し、研究成果を広く世間に公開した。
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