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2017 年度 実施状況報告書

「革かフェルトか!」打弦素材の変換がもたらした鍵盤音楽におけるパラダイム転換研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K02311
研究機関和歌山大学

研究代表者

山名 仁  和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2020-03-31
キーワードフォルテピアノ / ハンマーヘッド / 革 / フェルト / 素材 / 演奏法 / 解釈
研究実績の概要

初年度の国内の楽器博物館および個人蔵のフォルテピアノの調査によって明らかとなった、革のハンマーヘッドからフェルトのハンマーヘッドへの過渡期の多様な状況関するオーセンティシティーを明らかにすることを目的とし、欧州のフォルテピアノの修復において、ハンマーヘッドの素材についての先進的な研究をしている修復家を訪問し、文献等では確認できない修復過程およびハンマーヘッドの素材に関する聞き取り調査を行った。対象とする楽器は国内調査において顕著な対照を示した、1830年代から1840年代にかけてハンマーヘッドのフェルト化の最先端を行ったフランスの楽器と革のハンマーヘッドにこだわったドイツの楽器に焦点を絞った。フランスの楽器に関しては、この年代のプレイエルの修復を専門としているOlivier Amerigo Fadini氏、ウィーンとパリの楽器の双方の修復に通暁しているオランダのEdwin Beunk氏を訪問した。またドイツの楽器に関しては、ハレのヘンデル博物館の修復工房責任者でハンマーヘッドの革に関する論文もあるRoland Hentzschel氏、ニュルンベルクのGermanisches NationalmuseumおよびウィーンのKunsthistorisches Museumにおいて修復に携わり、革に関する論文があるSusanne Wittmayer氏を訪問した。その結果、次のことが明らかとなった。①革およびフェルトに関する基礎的な研究が欠けている、②オリジナルのハンマーヘッドが残っているケースは稀であり、その判断も難しい、③音色の違いはハンマーヘッドのトップの素材のみで決まるわけではない。下層の素材とのコンビネーションで決まる。④革とフェルトの素材の違いによる音色の違いについて、無いと考える修復家が2名あり、一方でその変化が音楽にもたらした変化は大きいと考える修復家もあった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本来、本研究はハンマーヘッドの素材の変化と演奏法あるいは作曲法の変化との関わりについて明らかにすることを目的としている。しかし今回の研究調査によって1830年代から19世紀末にかけて、革だけのハンマーヘッドからフェルトのみのハンマーヘッドに落ち着くまでに、地域差あるいは製作家の個性も含めて様々な可能性が試みられており、また現存するフォルテピアノの多くはそのハンマーヘッドが付け替えられ、オリジナルか否かを判断することが難しい状況であることが分かった。これは本研究の基本となる楽器のオーセンティシティーが確定できないことを意味しているが、一方でフランスのプレイエル、そしてウィーンのシュトライヒャーについては研究が進んでいることが判断できた。また革かフェルトかによって、音質に大きな違いは無いとする意見があったことについて「研究実績の概要」で触れたが、その発言があった修復家のコレクションで研究代表者が試奏した感触では、楽器個体の差異とは別に革の響き、フェルトの響きというものがあるとの認識を新たにした。今後は周辺の製作家も視野に入れつつ、そのハンマーヘッドのオーセンティシティーを確定させ、この2製作家と関係の深い作曲家の演奏法および作曲法についての研究に焦点を絞ることとする。

今後の研究の推進方策

まず、今回の聞き取り調査の内容を精査する必要がある。例えば、ある修復家は、「革とフェルトによる音色の違いはなく、重要な点は、革は比較的長持ちするが長い間には音質が金属的になる、一方でフェルトは音質は良いがすぐに切れてしまう、という一長一短があることである」と回答している。しかし本人が開発したフェルトについて、他には無い美点があると主張するといった矛盾が見受けられた。今後はこのような矛盾の検証を行うとともに、修復家間の意見の相違をまとめ、視点を新たにした文献調査を行い、研究対象となる楽器の特定と装填するハンマーヘッドの精査を行う。
これまでのところ、パプがフェルトのハンマーヘッドで特許を取得した後、ハンマーヘッドはどのような製法で作られていたのか、革はいつ頃使われなくなったのか、といった事について明らかとなっていない。製法は、製作家の秘密事項であった故、一次資料が著しく欠けている。しかし以下の文献は、この問題について手掛かりを与えてくれるだろう。
「Giacomo Ferdinando Sievers, Il pianoforte, guida pratica per construttori, accordantori, dilettanti e possessori di pianoforti, Napoli 1868.」「Julius Bluhthner, Lehrbuch des Pianofortebaues, Weimar 1872, reprint Bochinsky, 1992.」「“Affect in action : Hammer design in French Romantic pianos“, in: Chopin et son temps : actes des Rencontres internationales harmoniques.」

備考

筒井はる香(研究協力者)
フォルテピアノから知る古典派ピアノ曲の奏法~『チェンバロやクラヴィコードからフォルテピアノの時代への変遷』音楽之友社(2017)

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》第29回 J.B.アウエルンハンマー2018

    • 著者名/発表者名
      山名敏之、小倉貴久子
    • 雑誌名

      なし

      巻: なし

  • [図書] 日本チェンバロ協会年報 創刊号 『W.A.モーツァルト:クラヴィーア・ソナタK.331の自筆譜一部発見(2014年)後の新しい2つの原典版(ヘンレ社、全音楽譜出版社)』2018

    • 著者名/発表者名
      山名敏之
    • 総ページ数
      152
    • 出版者
      アルテスパブリッシング
    • ISBN
      978-4-86559-165-1

URL: 

公開日: 2018-12-17  

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