研究代表者は昨年度までに、ニュルンベルクのバイエルン産業博物館の歴史と、附属マイスターコースで学んだ徒弟や職人、マイスターにより、ニュルンベルクにおいてユーゲントシュティルなど新しい意匠の美術工芸の生産が盛んになったことを確認した。最終年度は、バイエルン産業博物館におけるマイスター教育が1900年頃に活発化した背景として、新館の建設が重要なひとつの要因になっていると見て、新館と同博物館のコレクションを中心に調査研究を行った。 1869年の設立当初からバイエルン産業博物館独自の建物の建設が計画されていたが、1891年に当時の館長テオドール・フォン・クラマーの案が認められ、いわゆる新館が完成するのは1897年のことである。『バイエルン産業博物館ニュルンベルク新館会場回想録』(1897年)を調査した所、新館は同博物館の旧館の各部門の延べ床面積の2倍に広がり、施設の機能が充実したことが明らかになった。それにより、旧館が抱えていた諸問題を解決し、新しい時代の課題への対応が可能となった。新館には、新しい産業の成果を見本コレクションに展示することに加え、パリ万国博覧会など博覧会への出展や、新しい図案や図面などの作成、新しい技術の実験や素材の研究、特許に関わる手続きの支援など、社会からの様々な要請に対応する展示室や実験室等が設置されていたことを確認した。1900年頃からのバイエルン産業博物館の新たな専門領域のマイスターコース開設などの試みも、新館の開館で施設が充実したことにより可能となったと考えられる。 また、資料調査により、手本コレクションはもともと石膏像などの立体模型も含む、古今東西の美術工芸の意匠のデータベースであったこと、展示や講演会の際に使用され、生産者や美術工芸を学ぶ者のために閲覧に供されるだけでなく、学校に貸し出されるなど、教育普及においても活用されていたことを確認した。
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